クァク・ノピルの未来の窓 2つの経路による10億年の生成量を推定 石油とは違い、すべての大陸で抽出可能 世界のエネルギーシフトに重要な役割を期待
100%クリーンなエネルギー源として注目される水素は、酸素と結合して電気を生み出し、温室効果ガスではなく水を排出する。特に、化石燃料から抽出される合成水素とは違い、自然に埋蔵されている天然水素は、生産過程でも温室ガスを排出しない。そうした点から「ホワイト水素」、または、金のように土中から直接掘り出るという点で「ゴールド水素」とも呼ばれる。このため、気候危機に対応する「カーボンニュートラル」の目標達成に寄与できる潜在的なエネルギー源として注目されている。
現在の全世界の年間の水素消費量は9000万トン。しかし、ほとんどが化石燃料から抽出されているため、年間約9億トンの二酸化炭素を排出する。これは全世界の炭素排出量の2.4%に相当する。水素の需要は増え続けており、2050年には5億4000万トンに達すると予想される。これが天然水素に替われば、カーボンニュートラルにも少なからぬ寄与となる。しかし、これまで天然水素がどこで生成され、どこで保存されているのかについての研究は断片的だった。
英国のオックスフォード大学とダラム大学、カナダのトロント大学の共同研究チームがこれを総合的に分析し、天然水素の資源潜在性を推定した研究結果を、国際学術誌「Nature Reviews Earth & Environment」に発表した。
これによると、過去10億年の間に地球の地殻の深部で生成された天然水素は、現在の全世界の石油消費量を基準とすると17万年分に相当する。1日の石油消費量の1億バレルを基準として計算すると、約320兆トンに相当する量だ。しかし、これからどれほどの量を抽出可能なのかは現時点では不明だ。
研究チームは、「失われたり利用不可能な状態の一定量を除いた残りは、クリーンエネルギー源として使用可能だと推定される」としたうえで、「経済的な天然水素の抽出方法を開発できれば、地球のエネルギーシフトにおいて重要な役割を果たせる」と主張した。
■天然水素が生成される2つの経路
研究チームは今回の研究で、天然水素が生成される2つの主要な経路を調べた。
一つ目は、鉄を豊富に含むカンラン石が水と反応して水素を生成する地質学的な経路だ。地殻の下にあるマントル上部に広く分布するカンラン石が高温で水と反応して蛇紋石になる過程で、天然水素が作られる。鉄が水分子から酸素原子を奪い、水素を放出する。
もう一つは放射性崩壊によるものだ。地殻の岩石にあるウラン、トリウム、カリウムのような放射性元素が崩壊し、水分子を水素と酸素に分解するのだ。
地質学的な経路は数千~数百万年、放射性崩壊によるものは数千万~数億年かかる。研究チームは、過去10億年の間に生成された水素エネルギーだけを考慮しても、現在の全世界の石油消費量の17万年分に相当すると推定した。
■天然水素が生成される4つの地質構造
研究チームは、この2つの経路で天然水素が生成され、蓄積が可能な地質学的環境は、大きく分けて4つあることを明らかにした。
一つ目は、大陸の縁にあるオフィオライトだ。オフィオライトは、地殻が衝突した際に大陸に押し出された海洋地殻を指す。科学者は2024年、クロム鉱山があるアルバニアのオフィオライト地帯で、巨大な水素の埋蔵地点を発見したことがある。アルバニアのオフィオライトは数千万年前にアフリカの地殻が欧州の地殻と衝突した際に押し上げられたものだ。
二つ目はアルカリ性花崗岩の地層だ。これには、放射線によって水が分解される過程を経て水素を生成できる、放射性花崗岩がある。
三つ目は巨大な火成岩地帯だ。そこに存在するマグネシウムと鉄が豊富な苦鉄質岩(mafic rock)において、水と岩石の化学反応を通じて水素を生成することができる。
四つ目は始生代(40億~25億年前)に形成されたグリーンストーン(緑色岩)地帯とトーナル岩‐トロニエム岩‐花崗閃緑岩質(TTG)花崗岩底盤(batholith)だ。底盤は、マグマが地表に噴出できずにその下で凝固した塊を指す。そこでは、水素を生成する水と岩石の反応と放射線分解のいずれもが発生しうる。
■米国30州に天然水素が埋蔵されていると推定
研究チームは「重要なのは、このような地質構造がすべての大陸に広く分布していること」だと強調した。これは、天然水素が石油のように特定の地域に集中しておらず、全世界において抽出して利用可能であることを示唆する。
これに先立ち、米国地質調査局は今年初め、質量保存則に基づくマスバランスモデル方程式を適用して計算した結果、地中の天然水素の総量は10億~1京トンの範囲にあり、最も可能性の高い値は5兆6000億トンであると推定されたと、国際学術誌「サイエンス・アドバンシス」に発表した。地質調査局はさらに、ミシガンやカンザスなど米国30州について天然水素の埋蔵の可能性が高いとみて、これを地図化して公開した。
しかし、天然水素を資源として抽出して使用するためには、生成された水素を封じ込めることができる密閉された空間、安全な輸送経路、そして、微生物の代謝や化学反応による消失を防ぐ環境が必要だ。しかし研究チームは、「水素分子は小さくて軽いため、容易に漏れてしまい、微生物のエサとして消費されやすいため、長期にわたり全部を保持することは難しい」としたうえで、「これが、地球の地質の歴史において莫大な量の水素が生成されたにもかかわらず、現時点ではその一部しか回収できない理由だ」と説明した。
研究チームはこれに先立ち、2023年に超伝導体の冷却材として使用されるヘリウムの地下埋蔵場所を探す方法を研究する論文をネイチャーに発表している。これによると、ヘリウムは高濃度の窒素ガスとともに存在する。研究チームは今年初め、米国のイエローストーン国立公園の周辺地域とタンザニアとインドの別の2カ所をヘリウム抽出の潜在的な候補地に選んだ。
2023年「スノーフォックス・ディスカバリー」(Snowfox Discovery)という名の会社を共同設立したオックスフォード大学とダラム大学の研究チームは現在、地中の水素とヘリウムの埋蔵場所を探している。
*論文情報
Natural hydrogen resource accumulation in the continental crust.
Nat Rev Earth Environ (2025).
doi.org/10.1038/s43017-025-00670-1
クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )