韓国・文在寅大統領が屈服した、アメリカの「本気の脅し」の中身

韓国・文在寅大統領が屈服した、アメリカの「本気の脅し」の中身

最初から「米軍撤退」を言っていた
日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄が失効数時間前の11月22日夕刻、ぎりぎりの段階で回避された。文在寅大統領は、その直前まで「日本政府が対韓輸出規制を見直さないならば破棄する」との姿勢を崩さなかっただけに、いきなりの方針転換が注目を集めた。
韓国政府の翻意の原因について、

「米国の圧力に屈した」

「米国の働きかけが半端じゃなかった」

韓国・文在寅大統領が屈服した、アメリカの「本気の脅し」の中身

永田町界隈では、そんな言葉がしきりと飛び交った。安倍晋三首相に至っては、「日本はなにも譲っていない。米国が非常に強くて韓国が降りたという話だ」と漏らし、トランプ大統領との絆を誇ったという。

だが、その「圧力」や「働きかけ」の中身を語る者はなかった。どこまでも漠然とした話に始終したのである。いったい米国は何をして、文大統領を屈服させたのか──。

政府関係者が重い口を開いた。

「世間では『在韓米軍の駐留費を5倍にする』と脅したことが決め手だったと言われているが、実際にはもっと激しかった。米国は最初の一手から、『GSOMIA破棄なら、在韓米軍を引き上げる』と言っていたのだ。

韓国と北朝鮮との戦争はいまなお終結しておらず、休戦状態にある。米軍撤退は致命的な危機を招きかねない。米軍の存在がなければ、北朝鮮の核とミサイルも抑制できない。

その一方、米軍はむしろ撤退したいというのが本音。韓国軍の指揮権(作戦統制権)についての歴史を振り返れば、すぐにわかる」

「もし従わないなら……」

韓国・文在寅大統領が屈服した、アメリカの「本気の脅し」の中身

韓国軍は戦後しばらくの間、国連軍に指揮権が委ねられていたが、1978年に米韓連合司令部が創設されると、在韓米軍とともにこの指揮下に入った。

独自の指揮権を得たのは1994年。もっとも、それも平時に関してのみで、休戦状態が解かれ、いざ戦時となれば、やはり米韓連合司令部の指揮下になる。いわば在韓米軍の属軍のようなものだが、むしろこの状態を望んでいるのは、韓国側のようだ。

実際、在韓米軍の削減を念頭に、米国は2007年に指揮権を韓国に移管しようとしたが、2010年に韓国側から移管の延期申し入れが行われた。北朝鮮の核・ミサイルへの対応を考慮してのことだ。

現時点では改めて2022年の移管が予定され、移管後は司令官に韓国の大将が就任することになってはいるが、在韓米軍を頼りにしていることに変わりはない。

「文大統領もさすがに米軍に出て行かれたら困る。米国はいきなりそこを突いた」

政府関係者は、そう言って続けた。

「次が経済制裁だ。米国に従わないなら、ペナルティを科すと通告した。当初、文大統領はこれを軽く考えていた節がある。国務省など米政府が強硬策に出ると言っても、実際にはできないだろうと。

だが、米議会の決議を見て考えを改めた。議会も動いたとなると、本気で制裁が発動しかねないと真剣に受け止め、その破壊的な影響力を考慮せざるを得なかった」

韓国経済の破綻を招く
米政府は11月に入って文大統領への圧力を強めていた。6日にはスティルウェル国務次官補や経済担当のクラーク国務次官が訪韓し、GSOMIA破棄の見直しを求めた。また、14日にエスパー国防長官を韓国に派遣。さらに21日夜、ポンペオ米国務長官が康京和外相宛に電話も入れている。米議会上院が、GSOMIAを維持する必要があるとの決議を全会一致で可決したのは、その最中である。

韓国の経済情勢に通じる経産省関係者が、米国の経済制裁の脅威について解説する。

「昨年の韓国の対米輸出額は700億ドルを超える。これは韓国の国家予算の6分の1に当たる。稼ぎ頭は自動車や関連部品、IT製品などだが、これらに懲罰的な関税が課せられたり、輸入禁止などの措置が取られたりしたら、大打撃だ。それこそ国家財政が破綻しかねない」

韓国の財務省に当たる企画財政省は今年8月、今年度予算を10%近く上回る513兆5000億ウォン(4234億5000万ドル)の来年度予算案を国会に提出している。財政赤字は拡大するものの、日本の輸入規制などの影響が響くなか、積極的な財政支出による経済活性化が不可欠と判断してのことだ。2008年の世界的な金融危機以来の積極財政だという。

それほど韓国経済は追い詰められている。にもかかわらず、「中国に対する措置を見ての通り、今後も同盟が危ぶまれるような事態になれば、米国は韓国への経済制裁も実際にやりかねない」とも同関係者は付言した。

これが国際政治の現実
「要するに力とカネでねじ伏せられた。国際政治の常道ではあるが、今回もこのやり方で韓国は屈服させられた。あくまでも破棄を『凍結した』のであり、今後はわからないという余地を残して、面目を保つのが精一杯だったというのが実際のところだ。

ただ、これに日本の韓国に対する輸出規制を絡めた点は実にあざとい。そもそもGSOMIA破棄は輸出管理を厳格化した日本への対抗措置として決定し、日本に通告したものだから、これについても話し合って解決しよう、解決できなければ凍結を解除するというわけだ。

面目と同時に、実利も考慮したのだろう。米国に仲介してくれとのメッセージでもある」

前出の政府関係者は、文大統領豹変の舞台裏について、そう総括した。

米国が突き付けた過酷な条件とそれに屈した韓国──。秘められた背景事情は、実に生々しい。どこまで行っても力とカネというのが、いまなお国際政治の冷徹な現実なのである。