夜更かしやゲーム、SNS利用で寝不足になる人物のイメージイラスト
夜ふかしがやめられない、ついゲームやSNSに没頭してしまう…。このような「やめられない」習慣に悩まされている人は少なくありません。特に、一度始めると時間を忘れてしまう魅力的なコンテンツは、私たちの自制心を簡単に打ち破ってしまいます。周りから「気合いでやめられるはず」と言われるかもしれませんが、それは過信に過ぎません。強固な意思力で対抗しようとするのは難しく、早々に諦めてしまう方が賢明です。しかし、諦めるべきは「止めようとする努力」であって、悪癖そのものではありません。実は、「ちょっとした工夫」を凝らすだけで、驚くほど簡単にこれらの悪習慣を改善する方法があります。認知行動療法を専門とする臨床心理士が提唱する、誰でも実践できる人生を楽にするヒントを探ります。
なぜ「やめられない」のか?夜の魔力と疲れた脳
マミさん(30代・私立高校事務)は、漫画を朝方まで読み続けてしまう習慣に悩んでいました。一度夢中になると続きが気になり、止まらなくなるのです。早く寝るべきだとわかっているのに、つい時間を忘れてしまい寝不足に苦しんでいます。
漫画やゲーム、連続ドラマなどのコンテンツは、視聴者やプレイヤーを惹きつけ、途中でやめられなくする工夫が満載です。こうした強力な誘惑と戦うのは至難の業です。特に夜という時間帯は不思議なもので、翌朝まで無限に時間があるかのような錯覚を抱かせます。この時間の経過に関する正確な体感は小脳が司っていると言われますが、夜の疲労困憊した脳がうまく機能しなくなるのは理解できます。
本来、夜は「寝る時間」です。しかし、日中に比べてやるべき作業に追われたり、すぐに約束の時間が迫っているわけでもない、ある種の「空白の時間」とも言えます。また、漫画という誘惑に対して通常であれば脳がブレーキをかけてくれるはずですが、夜の疲れた脳はうまく働いてくれません。そのため、「絶対にこれだけは優先しなければならない」という明確な予定がない限り、やめることが極めて難しくなってしまうのです。
解決策は「始める時間」をコントロールすること
気合いで「止める」のが難しいのであれば、アプローチを変えてみましょう。私たちは「読み始める時間」や「ゲームを始める時間」ならコントロールすることができます。これが悪習慣を断ち切る鍵となります。
まず、一日のうちで「どうしても遅れるわけにはいかない用事」を見つけます。例えば、乗り遅れると困る電車やバス、閉まる時間が決まっている銀行や郵便局、遅刻が許されない出社時刻、大切な人との待ち合わせ、時間厳守で迎えに行かなければ延長料金が発生する保育園などです。
この「絶対に遅れてはいけない用事」が始まる時間から逆算して、例えば「漫画やゲームをしてもいい時間」として許容できる短い時間(30分など)を決め、その時間になったら遊び始める、という習慣をスタートさせるのです。
当然、遅れてはいけない用事にとりかかる時間に気づけるように、スマホのアプリなどを活用して終わり時間のアラームを設定しておくことが不可欠です。アラームが鳴ったら、どんなに途中であっても中断するというルールを自分に課します。
実践例:通勤時間を活用したマミさんの成功
先述のマミさんは、この方法を応用しました。彼女は「布団の中で漫画を読む」のをやめ、「朝の通勤時にバスの中でのみ漫画を読む」ようにしたのです。こうすることで、行きと帰りの合計40分間だけ漫画を読むことができます。そして、最も重要なのは、降りる予定のバスの到着時刻にアラームをセットしておくことです。これにより、目的地であるバス停に降りるときに、確実に漫画を読むのをやめることができました。
確かに、夜の布団の中で読むような心地よさには敵わないかもしれません。しかし、次々にページをめくって止まらなくなるという悪循環からは完全に解放されました。さらに、それまで憂鬱だった通勤時間が楽しみな時間へと変化したのです。昼間のうちに漫画という楽しみを味わえるようになったことで、マミさんは寝床にスマホを持っていく習慣がなくなり、夜更かしすることが激減し、翌朝もスッキリと起きられるようになりました。
他の習慣への応用:ゲーム、SNS、映画…
この「始める時間をコントロールする」という解決策は、他の様々な「やめられない」習慣にも応用可能です。
- 映画やドラマを夜遅くまで見てしまう人: 通勤時間や職場の昼休みなど、日中の限られた時間内にスマホで視聴することを習慣にしましょう。終わりの時間が物理的に決まっているため、止めやすくなります。
- SNSを夜遅くまで見てしまう人: SNSを見るのは、「食器洗いや洗濯物たたみをしている時間だけ」「入浴中の湯船の中だけ」というように、始める時間や場所、継続できる時間を明確に区切りましょう。
- 夜遅くまでゲームをしてしまう子どものことで悩んでいる人: 子どもと話し合い、「ゲームがしたい時は、早起きして朝ごはんの時間の前までならしてもいい」という約束をしてみるのも一つの手です。朝ごはんや学校へ行く準備など、ダラダラしにくい「やるべきこと」の直前であれば、ゲームも比較的やめやすい環境を作れます(ただし、朝の準備で元々ごねてしまうタイプの子どもの場合は、この方法が逆効果になる可能性もあるため、慎重に検討が必要です)。
これらの例からもわかるように、「止められない」習慣に真正面から立ち向かうのではなく、「始めるタイミング」と「終えるタイミングを物理的・時間的な制約と紐づける」ことで、無理なく習慣を改善できる可能性が広がります。
まとめ
夜更かしやゲーム、SNSなど、「一度始めるとやめられない」という悪習慣は、意思の力だけで克服するのは困難です。その代わりに有効なのが、「始める時間」を厳密にコントロールするという認知行動療法的なアプローチです。絶対に遅れてはいけない用事の直前に、許容できる短い時間だけその行為を行う、そして必ずアラームなどの外部トリガーで終了するというルールを徹底します。この方法を実践することで、マミさんのように長年の夜更かし癖を改善し、日中の活動をより快適にすることが可能です。様々な「やめられない」習慣に応用できるこのシンプルな工夫は、あなたの生活の質を向上させる強力なツールとなり得ます。