「毒親」とは、自身の欲求不満や鬱憤を晴らすために弱い立場である子どもを自分の都合で利用したり支配したりする親を指す言葉です。親からの過干渉、絶え間ないダメ出し、威圧的な態度といった幼少期の経験は、その時期にとどまらず、むしろ成人後に様々なかたちで深刻な問題として表れることが少なくありません。例えば、自己肯定感の低さ、人間関係の困難、生きづらさ、そしてCさんのように自身のネグレクト傾向など、多岐にわたります。何よりも怖いのは、「幼少期の親からの影響」が、成人後にあらゆるところで影を落とす点です。
親からの影響が成人後に問題として表れる様子を示すイラスト
親からの影響が成人後にどう表れるか、具体的な事例として30代女性のCさんを見てみましょう。彼女は3歳の息子を育てながら「孤独感が抜けずに苦しい」という悩みを抱えています。また、夫との関係がうまくいっていないことも、彼女の孤独感や欲求不満を増幅させ、結果として子どもへの向き合い方にも困難を生じさせている可能性があります。過去の親子関係が、現在の夫婦関係や子育てに複雑な影を落としているのです。
Cさんは、子育て自体に苦痛を感じ、虐待には至らないものの、子どもが好きになれない自分に悩んでいます。息子が甘えてくると拒絶したい衝動に駆られるといいます。例えば、Cさんがテレビを見ている最中に息子が「ママ、手をつないで」と近づいてきた際、良い母親でいたいという気持ちから、義務感で手をつなぎますが、内側から強い抵抗感や苛立ちが湧き上がり、わずか1分もするとその状態に耐えられなくなってしまいます。
手を離した後、息子が再び手をつなぎにきたとき、Cさんはまるで「どうしてつないでくれないの?」「お前はダメな母親だ」「愛情がないのか」と子ども自身ではなく、内なる声、あるいは過去の母親から責められているような痛ましい感覚に襲われると語ります。この反応の根源を探るため、Cさんの幼少期に焦点を当てました。
Cさんは5歳のときに両親が離婚し、母親と二人で暮らす母子家庭で育ちました。母親は仕事で忙しいバリキャリ女性で、子育てにはほとんど無関心だったといいます。母親が唯一Cさんを褒めたり喜んだりしたのは、学校で良い成績を取ったときだけでした。このように、Cさんは母親からの愛情や関心を十分に受けられない、いわゆるネグレクトの環境で育ったのです。情緒的なサポートは皆無に等しく、悲しいことやつらいことがあったときに、素直に「悲しい」「つらい」「助けてほしい」と母親に伝える機会はほとんどありませんでした。自分の感情を表現しても受け入れられない、あるいは無視されるという経験から、感情を抑圧することを学び、本当の自分を表現することを諦めてしまった可能性があります。息子からの「手をつないで」という純粋な要求が、Cさん自身が幼少期に母親に求めても得られなかった愛情の渇望を刺激し、同時に「自分は母親として不十分だ」という内なる非難と結びついてしまうのかもしれません。この幼少期の満たされなかった経験が、成人したCさんの子育て、人間関係、そして自身の感情との向き合い方に深く影響を与えていると考えられます。
Cさんの事例は、特に幼少期のネグレクトなど「毒親」からの影響が、成人後の子育てや自己肯定感に深く関わる問題となり得ることを示唆しています。親子の関係性は、その後の人生における様々な人間関係の基盤を形成するため、過去の経験と向き合うことは、より健やかな人生を送る上で重要な一歩となり得ます。
参考文献:
『人生が180度変わる 人は「親の影響」が9割』より抜粋。