平日の朝、熾烈な競争が繰り広げられる情報ワイド番組の中で、長年にわたり視聴率トップを走り続けてきたテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」。民放では8年連続、NHKを含めても5年連続で同時間帯の首位を独走し、その盤石な牙城は揺るぎないものと思われていました。しかし、その視聴率に最近、気になる変化が見られるという指摘があります。この番組がいかにして「朝の顔」となり、そして今、何が起きているのでしょうか。
独走状態の「モーニングショー」強さの秘訣とは
「羽鳥慎一モーニングショー」がなぜこれほどまでに強いのか。その要因はいくつか挙げられます。まず、MCである羽鳥慎一アナウンサーの圧倒的な人気です。オリコンの「好きな男性アナウンサーランキング」で何度も1位に輝くなど、特に女性視聴者からの高い好感度が番組の安定した人気を支えています。加えて、政治、経済、事件、世相といった硬派なニュースから、生活に根差した軽い話題まで、幅広いネタを時に真剣に、時にユーモアを交えながら伝える羽鳥アナの巧みなMC力は群を抜いています。
さらに、石原良純氏や長嶋一茂氏といった個性派から、レギュラーコメンテーターの玉川徹氏のような歯に衣着せぬストレートな物言いで賛否を呼ぶ人物まで、強力なコメンテーター陣の存在も番組の大きな強みです。玉川氏のコメントは良くも悪くも視聴者の関心を引きつけ、「次は何を言うのか」という期待感を生んでいます。こうした「猛獣」とも形容されるコメンテーター陣を、羽鳥アナが絶妙なバランス感覚で捌く力量があってこそ、「モーニングショー」の強力な布陣が成り立っていると言えるでしょう。実際、テレビ朝日は昨年の年間視聴率で開局以来初の世帯・個人での三冠王を達成しましたが、「モーニングショー」はその立役者の一つと広く認識されています。
羽鳥慎一モーニングショーの視聴率を牽引する人気MC、羽鳥慎一
他局の挑戦と「一人勝ち」の状況
「羽鳥慎一モーニングショー」の独走に対し、他局も手をこまねいていたわけではありません。TBSは2021年3月に情報番組「グッとラック!」を打ち切り、翌4月にはバラエティに特化した「ラヴィット!」をスタートさせ、明確な差別化を図りました。日本テレビは昨年4月、それまで朝8時までの放送だった「ZIP!」を9時まで延長し、朝の時間帯の番組を途切れなくすることで対抗しました。そして、フジテレビは今年の4月から武田鉄矢氏やカズレーザー氏をスペシャルキャスターに迎えた新番組「めざまし8」を刷新した「サン! シャイン」を開始し、「モーニングショー」の牙城を崩そうと試みました。
しかし、これらの挑戦にもかかわらず、「モーニングショー」の勢いは衰えず、民放キー局の同時間帯では「一人勝ち」の状態が続いていました。長年の視聴率トップという実績は、番組内容だけでなく、視聴者の習慣や信頼にも根差した強固なブランドを築き上げてきた証拠と言えるでしょう。
突如として見られた視聴率の異変
盤石に見えた「モーニングショー」の視聴率ですが、今年に入ってから異変が見られ始めたという指摘があります。今年3月までは、世帯視聴率で10%を超える、つまり二桁の視聴率を獲得する日も珍しくありませんでした。これは昨年の年間平均視聴率9.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)から見ても、好調な推移を示していました。
ところが、4月以降、視聴率が一桁台になる日が増えてきたのです。そして、特に注目されたのが、5月28日に記録した7.4%という視聴率です。これは、これまでの安定した推移から見ると、かなり低い数字でした。この日は、裏番組で大規模なスポーツ中継があったわけでもなく、他の同時間帯番組の視聴率に大きな変動が見られたわけでもありませんでした。にもかかわらず、「モーニングショー」だけが急激に数字を下げたのです。
もちろん、7.4%という数字自体が極端に低いとは一概には言えませんが、普段から二桁を頻繁に記録する番組としては際立った低下でした。この日の同時間帯の視聴率では、NHKの「あさイチ」が世帯8.5%を記録し、「モーニングショー」は全局を通じたトップの座を逃しています。特段「あさイチ」の数字がこの日飛び抜けて高かったわけでもなく、この「モーニングショー」の単独での落ち込みは、識者の間でもその背景が注目されています。小泉進次郎農水相の「備蓄米5キロ2000円」発言など、ワイドショーで取り上げやすい時事ネタがあった時期であることも、この視聴率低下をより不可解なものとしています。
「羽鳥慎一モーニングショー」は依然として朝の情報番組の有力な選択肢であることに変わりはありませんが、最近見られた視聴率の変動は、長年のトップランナーにとっても決して油断できない状況が訪れていることを示唆しているのかもしれません。