「この仕事、もう一生やりたくない」
初めて「特殊清掃」の現場に足を踏み入れた瞬間、元Jリーガーの尾身俊哉さん(30)は心底後悔した(この記事は前編・後編でお届けします。本稿は前編です)。
【写真】元Jリーガーの尾身さんが行う特殊清掃の様子
後編:「ブランド力ない」元Jリーガーが見据えた“将来”
■マスクをしていても感じる腐敗臭
この部屋の住人である1人暮らしの男性が亡くなってから、2週間以上が経過していた。
マスクをしていても感じる腐敗臭が、部屋の奥から押し寄せてくる。布団には故人の体液で真っ黒な人形が浮かび上がっている。部屋中ウジ虫だらけで、歩くたびにクシャクシャと潰れる感覚が足の裏から伝わった。
匂いや有害物質が漏れ出ないように、消毒が終わるまでは窓は開けられない。40℃近い暑さの中での作業に、全身から汗が吹き出し、白い防護服が汗でピッタリと体に貼り付く。
覚悟を決めてこの世界に飛び込んだが、わずか数分で「続けていけるかな」と自信を失った。
それでもなんとか作業を終え、遺族に報告をした。このとき、心に渦巻いていた霧が一気に晴れた。四国から来たという故人の姉と母親から、「何から何まで全部やってくれて、ご迷惑をおかけして申し訳ない。本当にありがとう」と涙を流して感謝されたのだ。
「ご遺族も頭が真っ白で何をしていいのかわからなかったと思うんです。でも荷物が片付くと、少し気持ちも落ち着いてくる。感謝の言葉をかけてもらって、『やっぱりこういう仕事は大事なんだな』とこの仕事の意味を理解しました」
サッカーで得る喜びとは違う、誰かの役に立っているというやりがいだった。「それからはどんなに匂いがきつくても、どんなに過酷な現場でも苦ではなくなりました。あの言葉がなければ、僕は続けていなかったかもしれません」。
孤独死や自死した人の自宅、事故・事件の現場の原状回復を行う特殊清掃の会社を経営する尾身さんは、サッカー年代別日本代表に選出された経験もある、元Jリーガーだ。なぜ華やかなピッチから、孤独死の現場へ足を踏み入れたのか。その理由を知りたくて、彼の仕事に密着した。






