防衛省は、新型の国産対艦ミサイルである12式能力向上型の整備に強い意欲を示しています。これは米国のNSMを参考に開発された亜音速ミサイルで、速度はマッハ0.8程度、1秒間に300m未満で飛行します。対照的に、かつて先行開発された超音速対艦ミサイルASM-3系列は、マッハ3級の高速を誇り、1秒間に1km以上を飛ぶ高速ミサイルですが、今では開発元の防衛省も言及を避けています。なぜ防衛省はカタログスペック上高性能に見える超音速型ではなく、低速の亜音速ミサイルを珍重し、対艦ミサイルとして亜音速型を採用するのでしょうか。その理由は、現代の軍艦が持つ強固な防御を突破するため、亜音速型でなければ解決できない問題があるからです。超音速型では解決は望めないため、防衛省は一見して高性能なASM-3を「捨てた」と言えるのです。
最新の艦艇防御システムと「突防能力」
今日の対艦ミサイルが直面する最大の問題は、艦艇に搭載された防空システムの劇的な自動化です。この自動化が進んだ結果、従来型の対艦ミサイルでは、目標への命中が期待できなくなっています。そのため、新型軍艦側の防空システム、特に対艦ミサイル防御を突破するための機能、すなわち「突防能力」が極めて重要視されています。各国が新型対艦ミサイルの整備を急いでいるのは、この突防問題を解決するためです。
防衛省が進めるミサイル戦略に関連する戦闘機
亜音速ミサイルによる「迎撃不能」戦略
防衛省は、この突防問題を12式能力向上型の導入によって解決しようとしています。具体的には、「超々低空飛行」と「高度ステルス」という手法の組み合わせです。飛行高度を従来型の最低高度である2.8mよりもさらに低い高度に設定し、機体からの電波反射を背景雑音以下に抑え込むことで、軍艦側の迎撃を事実上不可能にします。レーダーによる探知が極めて困難となり、大砲やミサイルによる照準が不可能となるためです。
このアプローチは、米海軍が新規採用した亜音速対艦ミサイルNSMによる解決策に倣ったものです。NSMは高度1mを飛行するステルス型の亜音速対艦ミサイルであり、誘導形式も電波を出さない二波長赤外線画像誘導を採用しています。防衛省は、先行するNSMの成功を見た上で、その外形やコンセプトをほぼコピーしつつ、誘導機構をレーダー式に改めた12式能力向上型を構想した形です。
中国の論文でも、NSMは迎撃不可能と見なされています。解放軍火箭軍大学の研究者による論文では、NSMの「突防概率約100%」、つまり「迎撃不能」と結論づけています。北京航空航天大学の研究でもNSM対策が背景にあり、『光学技術』掲載論文では噴水で軍艦の姿を隠す方法まで検討されています(*1、*2)。
低空ステルスの実現に不可欠な「亜音速」
上記の突防手法、特に高度1mを飛行するような超々低空飛行は、非常に繊細な飛行制御を必要とします。わずかな操舵ミスや気流の乱れが墜落に直結しかねません。また、高度なステルス性を確保するには、空気取入口の形状や配置など、機体形状設計に大きな自由度が必要です。
これらの要素は、ミサイルの速力が亜音速でなければ実現が困難です。超音速飛行では、衝撃波や空力加熱といった問題により、空気力学的な制約が大きく、精密な姿勢制御や複雑な形状設計が難しくなるためです。
だからこそ、防衛省は高速の超音速型ASM-3系列ではなく、亜音速型の12式能力向上型の導入を進めているのです。一見、カタログスペックの速度性能で劣るように見えても、現代の艦艇防御システムに対して最も高い「突防能力」を発揮できる、極めて合理的な選択と言えます。
結論:現代戦に対応した合理的な選択
防衛省が超音速対艦ミサイルASM-3系列より亜音速の12式能力向上型を優先するのは、現代艦艇の強力な防空システムを突破するためです。亜音速だからこそ実現できる超々低空飛行と高度ステルス技術こそが、この「突防能力」の鍵となります。速度性能だけでなく、最新の脅威環境で最も効果的な「命中するミサイル」を選ぶ、防衛省の合理的な判断と言えるでしょう。
[Source link ](https://news.yahoo.co.jp/articles/cd0c06339a4902b11ed39c9aea1aae51ce6a95cd)