JA米「産地偽装」疑惑の衝撃調査 千本木啓文記者の執念

ノンフィクション作家の千本木啓文氏は、日本農業新聞の記者を経て2014年に「週刊ダイヤモンド」の記者に転身した。徹底取材でJAグループの深い闇に迫る中で、特に注目されたのが関西で過熱するJA米の安売り競争とその裏に囁かれたJA米 産地偽装の疑惑だ。プライスリーダーであるべきJAの米が、スーパーで通常の半値という異常な価格で販売されていた。米卸やスーパーも儲けが出ないはずの投げ売り状態。取材を進めると、関係者からは「品質の悪い米や外国産米を混ぜて卸価格を下げているのではないか」との声が複数上がった。偽装米は品質低下を招くだけでなく、安くまずい米は消費の減退に直結するため、農業者にとってこれは二重の自殺行為であると危惧された。一般的な記者はここで監督官庁である農水省などに取材情報をぶつけ、当局の動きを待つのが常道だ。しかし、千本木氏は、それでは時間がかかり過ぎ、生ぬるい農水省の調査では真相に届かないと考えた。彼が選んだのは、より直接的な、調査報道の原点とも言える手法だった。

東京都心にあるJAグループの37階建て本部ビル外観東京都心にあるJAグループの37階建て本部ビル外観

疑惑を追う:米の購入と同位体検査

取材で得た情報を基に、千本木氏は2017年1月、特に疑わしいと思われたコシヒカリを大量に購入した。そして、国内最大規模の産地判別検査機関である同位体研究所に検査を依頼したのである。同研究所は、検体の組織中の元素の安定同位体比を調べる手法を用いており、2009年以降、1000件以上の精米の産地判別実績を持っていた。この手法は、米が育った地域の気候や土壌に含まれる成分比率を反映するため、高い精度で産地を特定できるとされる。千本木氏は、科学的な手法で偽装の有無を明らかにすることを試みた。

衝撃の検査結果:混入された外国産米の実態

依頼から2週間後、検査結果が出た。送付されてきた報告書を読んで、千本木氏は目を疑う。JAグループ京都の米卸会社「京山」が精米・販売した4袋(4銘柄各8キロ)のうち、「滋賀こしひかり」について、「10粒の検体のうち6粒が中国産と判別された」と記載されていたのだ。さらに詳細な結果は以下の通りだった。

  • 「新潟県魚沼産こしひかり」:10粒中4粒が中国産と判別。本検体の安定同位体比値は、魚沼産コシヒカリの安定同位体比値群と合致せず、他府県産である可能性が高いことも示唆された。
  • 「京都丹後こしひかり」:10粒中3粒が中国産と判別。
  • 「新潟産こしひかり」:10粒中10粒が国産と判別された。これは対照的な結果であり、偽装の可能性がない米と比較するための重要なデータとなった。

この判別精度は92.8%と報告されている。この検査結果は、JAグループの関連会社から販売された米に、消費者が意図しない中国産米が相当数混入しているという衝撃的な事実を明らかにした。これは単なる安売りではなく、組織的な産地偽装の疑いを強く抱かせるものだった。

この科学的な検査で裏付けられた事実は、JAグループ内の米流通における闇の一端を浮き彫りにし、ジャーナリストの執念が明らかにした重要な調査報道の成果と言える。消費者への裏切りであり、国内農業の信頼を揺るがすこの問題は、JAグループに厳しい目が向けられるきっかけとなった。

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