書評のために石井光太氏の著書『血と反抗』を読んだ後、「これは自分が書くべきだ」と強く感じました。この本に登場する「移民2世」の背景や心情が、私自身の内に深く共鳴するからです。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、日本で育ったラッパー、なみちえ。私もまた、「在日2世」として生きてきました。本書の内容は激しく凄絶ですが、私には不思議なほど抵抗なく読めました。それはきっと、この“日本の社会の裏側”を、この肌の色を通して感じながら生きてきた経験があるからでしょう。
自身の経験が物語るリアリティと書籍との共鳴
自身の経験、それは中学での男子からの毒物扱いや、学校でのブレイズ（編み込みヘア）に対する規制、そして渋谷での肌の色を理由にしたレイシャルプロファイリングによる不当逮捕でした。留置場という、あの気味が悪いほど“何もない”閉鎖的な空間から外に出た時、私の心は人生で最も荒んでいました。あの時の感覚は今も忘れられません。
著者の石井光太氏は、移民社会の現場を驚くほど淡々と、それでいて非常に丁寧にすくい上げていきます。一切の脚色がないからこそ、描かれる情景は息をのむほどリアルに胸に響きました。登場人物たちが直面する痛みや苦しみは、私の経験よりもさらに過酷だったかもしれません。けれど、あの「絶望と隣り合わせの気持ち」だけは、私にも痛いほど理解せざるを得ませんでした。この本は単なる社会のダークサイドを描くだけに留まらず、そこから“グレー”を抜け出し、“ブライトサイド”へ向かおうとする強い意志の物語にも見えました。登場する若い世代は、それぞれの“悪事”や“不遇”な状況を通して、時に社会との折り合いをつけ、時にその困難を乗り越えようと必死にもがいています。
移民2世の経験を語るラッパーなみちえ氏と石井光太著『血と反抗』カバー：日本の社会問題
アイデンティティの葛藤と「グレーゾーン」という視点
“半分”外国人という立場であるがゆえに、私は時に“倍”の苦しみを味わってきました。差別や迫害の渦中に置かれた時、自分が一体何者なのか、そして社会の中でどこに居場所があるのか、見失いそうになるのです。分断を不必要に煽りたいわけではありません。ただ、今起きている現実を、偏見なくフラットに見つめられる存在でありたいと願っています。私はいつも、いや、おそらく人間という存在そのものが、常に「グレーゾーン」の中で生きているのではないでしょうか。そのグレーが、ある瞬間に明るく見えたり、希望を示す白に近づいたりする瞬間がある、ただそれだけなのだと思うのです。
社会構造の根を見つめる重要性と植民地主義の影響
本書を通して私が強く訴えたいと思ったのは、国の制度や社会の枠組みを見直す際に、表面的な応急処置ではなく、もっと根本的な原因を見つめてほしいという点です。なぜ特定の人が社会から「はみ出してしまう」のか、なぜ「見捨てられた」と感じてしまうのか。この本は、その痛みの“根”へと読者を深く導いてくれる力を持っています。
さらに、私の中には植民地主義に対する強い憤りがあります。「移民」や「在日」といった言葉の背後には、かつて支配した側の構造が今も根深く残っていると感じるからです。その暗い影が、現代の制度や人々の意識の中に宿っているのだとしたら――その深い歴史的な傷を真正面から見つめ直し、直視しない限り、いつかまた誰かがその痛みを一方的に引き受けさせられてしまうでしょう。そして、その痛みが原因で心が“膿んで重症化”している人も、残念ながらたくさん存在しています。
痛みから生まれる創造力、そして生き延びる力
この本を読んでいるうちに、自然とラップのリリックが心の中に湧き上がってきました。心に秘めた痛みや社会への怒りが、そのままリズムと言葉へと変換されていくのです。そうやって私は、この厳しく困難な社会を今日まで生き延びてくることができました。石井光太氏の著書『血と反抗』もまた、読む者に強く生き延びるための内なる力を生み出してくれる、そんな一冊です。
『血と反抗』は、日本の社会の片隅で生きる人々の見過ごされがちな現実を鮮やかに映し出します。痛みを伴う真実ですが、厳しい状況でも光を見つけ、自らの足で立ち上がろうとする人間の強さも描いています。この書評を通し、一人でも多くの方が本書を手に取り、日本の社会が抱える根深い問題、そして「移民2世」や「在日」と呼ばれる人々の内面に存在する葛藤と希望に触れてくれることを願っています。
