「ブルーカラービリオネア」現象:米国に続き日本でも「筋肉の時代」が到来か

これからの時代に「稼げる」仕事とは一体何でしょうか。文筆家の御田寺圭氏は、米国でブルーカラーが高収入を得る現象が起きていると指摘し、この流れが日本にも波及すると予測しています。AIの急速な発展により、私たちの労働市場、特にホワイトカラーの仕事の未来が大きく揺らぐ中、肉体労働や現場の技能職の価値が再評価される「筋肉の時代」が到来しようとしているのかもしれません。本記事では、この新たな労働市場の動向と、日本への影響について深く掘り下げていきます。

アメリカで加速する「ブルーカラービリオネア」の実態

近年、アメリカでは「ブルーカラーで億万長者も夢じゃない」という、これまでには考えられなかったニュースが大きな話題を呼んでいます。人手不足による需要超過が原因で、ブルーカラーの仕事の単価が急上昇し、驚くほどの収入を叩き出す人々が続出しているのです。日本経済新聞は、この現象を以下のように報じています。

「音響装置の修理技師がポルシェに乗ってやって来たよ」。弁護士の友人が苦笑する。マンハッタンの自宅アパートの天井や壁に取り付けたオーディオシステムが故障して修理に来た技術者は数千ドルの修理代を請求した。友人はウォール街の金融機関を顧客に長年法務サービスを手掛けてきた腕利き弁護士で、顧客には1時間700ドルから1000ドルの手数料を受け取ってきた。(日本経済新聞「米国で『ブルーカラービリオネア』現象 AI発展で潤う肉体労働者」2025年11月2日より引用)

この記事では、こうした高収入を得る技能工を「ブルーカラービリオネア」と称しています。米国ではAIの発展に伴い、大卒以上の高度人材の失業が加速する一方で、高い学費を払ったホワイトカラーが職を見つけられずにいる現状があります。これとは対照的に、ブルーカラーの職種は引く手あまたで高給取りになるという構図が、今後さらに加速すると見られています。御田寺圭氏が以前より提唱してきた「筋肉の時代」が、まさに現実のものとなりつつあるのです。

パソコンで作業する人物の手元パソコンで作業する人物の手元

AI時代における「現場系技術職」の価値

私たちが日常業務でAIを駆使する機会が増える中、AIが近い将来、知識階級の人々の仕事やポジションのほとんどを奪っていくであろうことは、もはや疑いようがありません。すでにその兆候は現れています。統計的に見ると、日本の労働市場は名目上「空前の売り手市場」にあるとされていますが、その内実を詳しく見れば、この「売り手市場」を支えているのは主に現場系の求人数です。一方で、知的階級の人々が就きたがる一般事務職のカテゴリーでは、依然として「買い手市場」が深刻化しています。

当面の間、AIに代替される見込みが少ない土木、建設、配管といった現場系技術職は、空前の人手不足と需要の逼迫に後押しされ、ますます「稼げる仕事」となっています。将来的にはロボット技術の発展がこうした技術職にも及ぶ可能性はありますが、抽象的な記号のやり取りに終始する知的労働とは異なり、肉体労働は一朝一夕には代替されません。人間の手先による数値化困難な感覚的な技術体系を多く含み、また過酷な労働環境下ではロボットのメンテナンスコストも高まるためです。段階的には進むでしょうが、現場系技術職がロボットに完全に代替されるまでには、まだ相当の時間を要するでしょう。

時代は「身体的なもの」を新たな資本とする

いずれにせよ、時代の流れは完全にブルーカラーに傾いており、これから私たちの暮らしを支える「資本」は、「お勉強の得意さ」から「身体の丈夫さ」そして「ハキハキとした受け答え」といった、より身体的なものへと変化していくことになります。この大きな流れは、当然ながら日本にも波及してくるでしょう。私たちは、この変化の波にどのように適応し、新たな価値観の中で自身のキャリアを築いていくべきか、真剣に考える時期に来ています。