このわずか4年間で、日本の決済風景は劇的に変化しました。東京オリンピックを契機に、Visaが世界標準のタッチ決済を国内で強力に推進したことが、非接触決済手段の大きな切り替えを促しています。対面決済におけるVisaタッチ決済の比率は急上昇し、2025年3月には52%に達する見込みで、発行カード数は1億5000万枚を超えました。
一方で、長年日本の非接触決済を支えてきたiDやQUICPayからは、カード発行会社の撤退が相次いでいます。SBI新生銀行グループのアプラスは2024年7月末でQUICPayサービスを終了し、三井住友カードも2025年7月以降の新カードからiD機能を削除する方針です。ゆうちょ銀行も新規発行でのiD搭載を順次終えています。
Visaワールドワイド・ジャパンのシータン・キトニー社長は、日本のタッチ決済比率について「近い将来、90%台後半を目指したい」と野心的な目標を語っており、タッチ決済の爆発的普及と従来技術の退場が同時進行する中、日本の非接触決済インフラは大きな転換点を迎えています。
爆発的な普及を見せるVisaタッチ決済
Visaタッチ決済の普及スピードは、業界関係者の予測を大きく上回る「前例のないペース」で進んでいます。この勢いは、業種別の成長率に明確に現れています。2023年第2四半期と比較すると、2025年の同時期にはコンビニエンスストアでの非接触決済が2.8倍、レストランで5.5倍、ドラッグストアで7.7倍、スーパーマーケットで3.2倍と、主要な小売・サービス分野で軒並み急成長を遂げています。当初はコンビニなど小口決済が中心でしたが、その利便性から徐々に高額決済への浸透も進んでいます。
QUICPayサービスの状況と一部カード会社の撤退を示唆する画像
従来のICチップ読み取り決済と比べ、タッチ決済は圧倒的にスピーディで利便性が高い点が特長です。多くの場合、暗証番号の入力が不要で、「センターと通信しています」といった待ち時間も発生しないため、レジでの決済時間が大幅に短縮されます。キトニー社長は、この現象を「非接触決済が消費者の日常に完全に定着したことの数値的な現れ」と分析しています。
普及を後押しする具体的な成功事例:大阪プロモーション
Visaタッチ決済の成長ポテンシャルを実証したのが、2024年4月に開始されたVisaの大阪エリアプロモーションプロジェクトです。この地域限定の集中的な投資は、わずか8ヶ月間で劇的な効果を生むことを証明しました。
大阪でのVisaタッチ決済によるアクティブカード数は全国平均の103%を上回る109%の成長を記録し、特にモバイル決済に至っては167%と全国平均の146%を大幅に凌駕しました。消費者の反応も非常に良好です。商業施設でのプロモーション参加を支援する「Visaオファーズエクスチェンジ」の登録件数は、3月の25万件から5月には55万件へと倍増しました。複数キャンペーンに参加したカード会員は支出を17%増加させ、月間で非接触取引を行うアカウント数は300万を突破しています。
Visaワールドワイド・ジャパンのシータン・キトニー社長。日本のVisaタッチ決済普及目標について語る様子。
キトニー社長は、この成功について「的を絞ったプロモーションが、消費者の求めるシームレスな決済体験への欲求を呼び覚ました」と手応えを語っています。プロジェクトは大阪市内にとどまらず、堺、泉佐野、岸和田、阪南など周辺地域にも拡大しており、約140店舗がこの取り組みに参加しています。
非接触決済インフラの転換点
Visaタッチ決済が前例のない速度で普及する一方で、長年の日本の非接触決済を支えてきたiDやQUICPayからの「撤退」という動きが相次いでいることは、日本の決済インフラが大きな転換点を迎えていることを明確に示しています。アプラスや三井住友カード、ゆうちょ銀行といった主要な金融機関やカード会社が、新規発行におけるiDやQUICPayの搭載を終了、あるいはサービス自体から撤退するという決定は、今後の非接触決済市場の構図を大きく塗り替える可能性があります。
Visaの掲げる「90%台後半」という野心的な普及目標は、Visaタッチ決済が日本の非接触決済のデファクトスタンダードとなる未来を示唆しています。利便性とスピードに優れ、世界標準であるVisaタッチ決済へのシフトは今後も加速すると予測され、日本の非接触決済インフラは、よりシンプルで国際的な規格に準拠した方向へと集約されていく可能性が高いでしょう。