論文代筆巡り夫が妻を提訴、裁判所が示した判断

心が広く、包容力があれば、誰からも好かれ、人望も厚くなる。逆に細かいことや小さいことを気にする人間からはいつのまにか人が離れていく。「俺に任しておけ!」。そう言って、妻の論文作成の代筆依頼を快諾し、見事に期限内に完成させ、妻、そして自身の株をあげた夫。ところが、蜜月期間を過ぎ、やがて離婚紛争になるまで関係がこじれると、夫が「あれを書いたのは俺だ!」とまさかの主張で妻に損害賠償を請求する事態に発展した。この異例の夫婦間訴訟に対し、裁判所は夫の請求を認めず、夫が全面敗訴する判決を下している。度量の小さすぎる男に、裁判所はどのような判断を示したのか、詳細を見ていこう。

夫婦による論文共同作業、そして関係の変化

提出期限が近い宿題や論文を、家族や親しい友人に手伝ってもらう、あるいは代わりにやってもらうという話は珍しくない。しかし、親しい間柄だったはずの「代筆者」が後に関係が悪化し、「あの論文を書いたのは自分だ!」と主張し、代筆を頼んだ身内相手に損害賠償を請求したとなれば、これは法的なトラブルへと発展する。

大学で助教を務める女性研究者のAさんは、米国出身でGAFA関連会社に勤務するエリート・Bさんと結婚し同居を開始。同時期に、自身の研究分野について国際学会で発表する機会を得た。結婚準備と学会発表を並行させる中で、Aさんは発表内容を論文として掲載する打診を受け、締め切りまで12日、英語で執筆する必要に迫られる。

困ったAさんは、英語を母国語とする夫Bさんに協力を依頼。Bさんはこれに応じ、Aさんの骨子をもとに別の外国の友人Cさんと共にわずか2日で約14頁の英文原稿を完成させた。最後にAさんが若干の修正を施し、論文はAさんの名前で無事に学会ウェブサイトに掲載された。この出来事を通し、夫婦の絆は深まり、約一年後には第一子を授かっている。

論文代筆を巡る夫婦訴訟に関わる男性の肖像論文代筆を巡る夫婦訴訟に関わる男性の肖像

離婚紛争へ発展、夫によるまさかの損害賠償請求

蜜月期間を経て、残念ながら夫婦関係は悪化し、やがて離婚紛争へと発展した。その過程で、かつて妻のために論文執筆に協力した夫Bさんが、突如として「あの論文は自分が書いたものだ」と主張し始めたのである。

Bさんは、論文の主要な執筆者が自分であるとして、妻Aさんに対し論文に関連する損害賠償を請求する訴えを提起した。これは、妻のキャリア形成に協力した行為を、関係悪化後に金銭的な要求の根拠とする、極めて異例なケースと言える。

裁判所の判断:夫の請求を棄却

この夫婦間における論文代筆を巡る損害賠償請求訴訟に対し、裁判所は夫Bさんの訴えを詳細に審理した結果、最終的に夫の請求を全面的に棄却する判決を下した。

裁判所は、論文が妻Aさんの研究に基づき、Aさんの名前で学会に提出・掲載された経緯や、夫婦間での協力の性質などを総合的に考慮したとみられる。たとえ夫が執筆に大きく関与していたとしても、それが直ちに夫に論文の単独所有権や、妻に対する損害賠償請求権を生じさせるものではないと判断された形だ。結果として、この「器の小ささ」とも形容された夫の主張は、法的には認められなかった。

結論

今回の論文代筆を巡る夫婦間訴訟は、協力関係が破綻した際に過去の恩義が争点となる稀有な事例となった。夫が妻のキャリアのために行った協力行為を、離婚紛争において妻への攻撃材料として利用しようとしたが、裁判所は夫の請求を明確に退けた。この判決は、夫婦間の協力や支援が法的にどのように評価されるか、また、個人的な関係性の変化が過去の行為の法的な性質に必ずしも影響を与えないことを示唆している。

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