「この戦争に勝てるとは思わん。（中略）日本が勝てるとは思わんがや」──多くの国民が自国の勝利を信じる中、ただ一人、世界情勢から日本の敗戦を予見し、その寂しさを滲ませる男がいた。現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』において、今田美桜（28才）演じるヒロイン・のぶの夫、若松次郎である。彼を演じる俳優・中島歩（36才）は、184cmの長身と魅力的な低音ボイスで、その初登場から視聴者の心を掴んでいる。彼の演じる次郎が見せる複雑な感情表現は、戦時下という困難な時代背景の中で特に印象深く、視聴者の間で早くも大きな反響を呼んでいる。
NHK連続テレビ小説『あんぱん』で若松次郎を演じ、注目度が高まる俳優・中島歩氏
朝ドラ『あんぱん』での存在感と視聴者の反応
物語が進むにつれて、次郎がのぶに送る手紙の存在が視聴者の間で話題となっている。特に、「どうか明るく毎日を送ってください」という、まるで遺書のような文面は多くの視聴者の涙を誘った。物語は太平洋戦争の終戦が近づいており、のぶが後に北村匠海さん（27才）演じる柳井嵩と結ばれることが示唆されていることもあり、この意味深な手紙と合わせて、「次郎さんロス」を心配する声が早くも視聴者から聞こえ始めている。中島歩の繊細な演技が、次郎というキャラクターに深みを与え、視聴者の感情移入を誘っている証拠と言えるだろう。
続々話題作に出演：『不適切にもほどがある！』、CMでの共演
『あんぱん』での好演により注目度が増している中島だが、近年、出演作が話題に上ることが増えている。記憶に新しいのは、2024年に放送されたTBS系ドラマ『不適切にもほどがある！』だ。この作品では、昭和の教師という役柄を演じ、生徒の母親役である吉田羊さんを口説き落とそうとする、猪突猛進でありながらも純情なキャラクターで注目を集めた。また、現在放送されている虫除けのCMでは、長澤まさみさん（38才）と共演しており、その存在感をより一層広く知らしめている。彫りの深い顔立ちと、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気は、昭和を舞台にした作品や、温かみのあるCMに自然と溶け込んでいる。
文豪・国木田独歩の玄孫という異色の経歴
中島歩のプロフィールの中で特に異彩を放つのが、彼が文豪・国木田独歩の玄孫であるという事実だ。『武蔵野』などで知られる明治時代の文豪の血を引いていることは、彼の俳優としての深みや知的な雰囲気に繋がっているのかもしれない。彼の「歩」という名前も、国木田独歩に由来しているという。大学時代には自ら小説を執筆した経験もあるといい、文豪のDNAは確かに受け継がれているようだ。また、彼は既婚者であり、子供もいることを公にしている。これまでのインタビューなどで家族について話す機会があまりなかったようだが、休日は家族と過ごす時間が多いという。
俳優としての苦労とブレイクまでの道のり
文豪の玄孫という華麗な家系を持ちながらも、俳優としては遅咲きであり、ブレイクに至るまでには数々の苦労があった。演技に目覚めたのは大学時代で、当初は役者業に繋がるかとモデルとしても活動していた時期もある。しかし、本格的に俳優として勝負したいという思いから一本に絞ったものの、オーディションを受けてもなかなか役が得られない鳴かず飛ばずの日々が続いた。生活のために日雇いや飲食店のアルバイトを掛け持ちして食い繋いでいたという。特にイベント用の什器の搬入といった肉体労働が続き、体調を崩しがちになった時期もあったと明かしている。殺伐としたバイト現場での経験は、彼の神経をすり減らすこともあったようだ。
朝ドラ『花子とアン』でのデビュー、そして成長
そんな苦労の日々を経て、中島は2014年にNHK朝ドラ『花子とアン』でドラマデビューを飾る。いきなり仲間由紀恵さん（45才）や吉田鋼太郎さん（66才）といった実力派俳優に囲まれた現場に立ち、当時は自身の力不足を感じ、何もできないという無力感に苛まれたという。しかし、その時の悔しさを糧に俳優として成長を続け、徐々に俳優業だけで生活できるようになった。これまでは売れない芸人役や冷徹な工作員役など、一風変わった役柄を演じることが多かった中島にとって、今回の朝ドラ『あんぱん』で見せる若松次郎のような、温厚で実直な好青年役は比較的珍しい。しかし、その自然体な演技が視聴者に受け入れられ、新たな魅力を開花させている。
今後の活躍：『愛の、がっこう。』への出演
朝ドラ『あんぱん』での好演で波に乗る中島歩は、早くも次の出演作が決定している。7月期に放送予定のフジテレビ系ドラマ『愛の、がっこう。』への出演が発表されており、その活躍はまだまだ続きそうだ。確かな演技力と、文豪の血を引く知的な雰囲気、そして遅咲きだからこその経験に裏打ちされた表現力を持つ中島歩は、今後さらに日本のエンターテインメント界で重要な存在となっていくポテンシャルを秘めている。最旬俳優としての彼の躍進から目が離せない。
