米空爆後のイラン核施設:「壊滅」評価と深まる核の不確実性

米国のドナルド・トランプ大統領は、イランに対する米国の空爆を即座に「目覚ましい軍事的成果」と称賛し、イランの核施設は「完全に壊滅した」と語った。この米軍によるイラン核施設への攻撃は、中東の政治情勢とイランの核開発プログラムの将来に大きな波紋を投げかけている。

空爆後の評価:軍事専門家の見解

しかし、西側諸国の軍の情報筋はCNNの取材に対し、イランの主要な核施設に撃ち込まれた十数発の大型地中貫通爆弾バンカーバスターと巡航ミサイル「トマホーク」による被害を完全に評価するには時期尚早だと述べている。たとえトランプ氏の描写が正確だったとしても、イランの核施設の破壊がイランによる核の脅威の終焉を意味することにはならないかもしれない。むしろ、その逆の可能性もある。

核攻撃抑止論とNPT脱退の動き

イラン国内の強硬派は長年にわたり、まさに今回のような圧倒的な攻撃に対する抑止力として核兵器を求めてきた経緯がある。イランは自国の核開発計画はあくまで平和目的であると主張し続けているものの、今回の攻撃を受けて、こうした強硬派からの核兵器開発要求が強まるのは避けられないだろう。核の強硬派はついに自分たちの思い通りにすることができるようになるかもしれないという懸念が高まっている。不吉なことに、イランの当局者はすでに、核兵器の拡散を抑止するために設計された「核拡散防止条約(NPT)」からの脱退を公に示唆している。

イランのアラグチ外相はトルコ・イスタンブールで、「NPTは我々を守ることができない。それなのに、なぜイランのような国や平和的な原子力エネルギーの利用に関心がある国がNPTに頼らなければならないのか」と語った。他のイランの議員らも、イランが正式にNPTから脱退するよう求めており、NPTからの脱退はイランの核兵器製造の意図を事実上確認したものと解釈される可能性が高い。

意図と能力:核開発プログラムの現状

もちろん、核兵器を製造する意図と、それを実行する能力は異なる問題である。米国による攻撃の直後であるだけに、核の能力に関する問題は大きな焦点となる可能性が高い。最新の衛星画像が裏付けているように、十数発のバンカーバスターによる攻撃は、イランの核開発計画に破壊されたとは言わないまでも、深刻な打撃を与えたことは間違いない。

イスファハン核施設、米空爆後に撮影された衛星画像イスファハン核施設、米空爆後に撮影された衛星画像

しかし、政治的な意思さえあれば、破壊されたり損傷したりした核濃縮施設は最終的には修復あるいは再建することができる。また、イスラエルが複数のイランの核科学者を標的にしているにもかかわらず、イランの核技術に関するノウハウそのものは生き残っていると考えられている。

行方不明の濃縮ウランと秘密施設

一方、国際原子力機関(IAEA)の当局者は、兵器級レベルに極めて近い60%に濃縮された大量のウラン235を含め、イランがすでに製造した核物質の所在が不明であると懸念を表明している。イランの国営メディアは、米国が攻撃したフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの3カ所の核施設は攻撃前に事前に「避難」が行われていたと伝えており、核物質の一部またはそのすべてが、IAEAの査察官にも知られていない秘密の施設など、別の場所に保管されている可能性が指摘されている。こうした危険な核の不確実性は、トランプ氏が予想していたものではなさそうだ。

平和への道か、報復の連鎖か

トランプ氏は米国による空爆後、「中東の暴君であるイランは今こそ、和平を結ばなくてはならない」と語った。しかし、現在の状況は、中東地域全体がイスラエルや米軍基地、あるいはホルムズ海峡などの主要な航路に対するイランのさらなる報復攻撃に備えている段階であり、和平の実現は遠い道のりのように思える。

欧州の外交官はCNNの取材に対し、20日にスイス・ジュネーブで行われた欧州とイランの当局者による短時間の会談に言及し、「イランとの会談はまさに好機だった」と主張した。この外交官は、「しかし、米国は今やその機会を閉ざしてしまった」と言い添え、今回の軍事行動が外交による解決の可能性を損なったとの見方を示した。

今回の米空爆は、イランの核開発能力に一時的な打撃を与えた可能性はあるものの、核の脅威そのものを終結させるどころか、イランを核武装へとさらに追いやり、地域全体の不安定化を招くリスクをはらんでいる。核物質の行方不明という不確実要素も加わり、中東情勢は予測困難な局面を迎えている。

◇本稿はCNNのマシュー・チャンス記者による分析記事です。