享年67で逝去した経済アナリスト、森永卓郎氏。彼の最期の書き下ろし原稿とインタビューをまとめた遺作『さらば!グローバル資本主義』が話題を呼んでいる。同書の中で森永氏が問いかけたのは、現代日本、特に東京のような都会における「高コストな暮らし」と、それとは異なる価値観で成り立つ地域のあり方についてだ。本記事では、森永氏が最期に到達したという「日本人が生き抜くための“答え”」の一端、特に都会とトカイナカにおける物価と家賃の差に焦点を当て、彼の問題提起を紹介する。これは、高コストな都会生活を強いられ、不本意な仕事を続けざるを得ない状況への対比として示されている。
日本の物価が最も安いのは「トカイナカ」エリア
森永氏が指摘するように、日本の物価は一律ではない。東京や横浜といった大都市圏は物価が最も高く、そこから電車で1時間程度の30キロから50キロ圏内、いわゆる「トカイナカエリア」に入ると、物価は顕著に下がる。しかし、さらに地方へ離れると、再び物価が高くなる傾向があるという。この背景には、トカイナカエリアに多く見られるロードサイド店の存在がある。これらの店舗が激しい価格競争を繰り広げることで、物価が安く抑えられているのだ。一方で、より田舎では商店の数が限られ、価格競争が働きにくいため定価販売が多くなる傾向にある。
また、森永氏が自身の経験から驚きをもって語るのは、このトカイナカエリアで稀に見られる「非資本主義的経済」の存在だ。彼が借りた農地は無償で、大家さんには収穫したスイカを一つ届けるだけで十分だったという。さらに、周囲の畑仲間が肥料を分けたり、農機具を無償で貸し借りしたりする関係性があり、「こんな非資本主義経済があるのか!」と強く印象づけられたと述べている。これは、貨幣経済とは異なる、相互扶助に基づく価値交換の可能性を示唆している。
都会の高い物価や家賃に対応するため、経済的な負担を抱えながら働く人々の様子。森永卓郎氏の指摘する都会とトカイナカのコスト差に関連。
家賃や公示地価も都会より安い
物価に加え、トカイナカエリアは「家賃」も圧倒的に安い。これは、地価の低さに直結している。森永氏が以前から問題提起していたように、2023年の東京23区内の新築マンションの平均販売価格は1億円を超え、多くの会社員にとっては手が届かない水準となっている。公示地価を見ても、都市部とトカイナカエリアでは大きな隔たりがある。
これらのコスト差は、人々の働き方や生き方に直接的な影響を与える。都会の高い物価や家賃を賄うためには、より多くの収入が必要となり、結果として「やりたくない仕事」であっても続けざるを得ない状況が生まれる。森永氏は、こうした高コストな都会での生活が、本当に個人の幸せにつながるのかという根本的な問いを投げかけているのだ。トカイナカエリアの低い生活コストは、必ずしも高収入を求めずとも、生活の質を維持できる可能性を示唆しており、人々に多様な生き方の選択肢があることを改めて気づかせてくれる。
まとめ:コスト負担から解放される生き方への示唆
森永卓郎氏の遺作に見る都会とトカイナカの物価・家賃の比較は、単なる経済指標の違いにとどまらない。それは、現代社会における高コストな生活構造がもたらす人々の負担や、それからの解放の可能性を示唆している。特にトカイナカエリアに見られる低い物価、安い家賃に加え、時に現れる非資本主義的な相互扶助の経済は、貨幣経済の制約を受けにくい暮らし方のヒントを与えてくれる。森永氏が最期に到達した問いは、経済的な合理性だけではなく、人が真に「幸せ」を感じるための暮らし方や働く意味について、改めて考えさせられる重要なメッセージと言えるだろう。