隈研吾氏設計の那珂川町馬頭広重美術館、老朽化で木製屋根をアルミ改修へ ファンから懸念の声

国立競技場を手掛けた世界的建築家・隈研吾氏が設計した栃木県那珂川町の馬頭広重美術館が、建物の老朽化に伴う大規模改修のため、今月より休館に入りました。特にデザインの象徴であった木製の屋根ルーバー(羽板)に劣化が見つかり、異例となるアルミ製への交換が決まったことが波紋を呼んでいます。町は風合いを損なわないよう木目調の加工を施す予定ですが、建物のファンからは「雰囲気が変わるのではないか」との心配の声が上がっています。この決定は、初期費用と将来的な維持管理費、安全性を考慮した結果とされています。

美術館の概要と老朽化の現状

江戸時代の浮世絵師・歌川広重の肉筆画を所蔵する馬頭広重美術館は、2000年に開館しました。鉄筋コンクリート一部鉄骨造りの平屋(延べ床面積約2000平方メートル)で、地元産の杉材を不燃処理したルーバーで全体を覆うデザインが特徴です。周囲の豊かな自然景観に溶け込む落ち着いた佇まいは、隈氏の代表作の一つとして国内外から高い評価を受け、多くの建築家や見学者を魅了してきました。

建築家・隈研吾氏が設計した那珂川町馬頭広重美術館の全景 (2008年撮影)建築家・隈研吾氏が設計した那珂川町馬頭広重美術館の全景 (2008年撮影)

しかし近年、風雨に常にさらされる屋根部分を中心に、木製ルーバーの腐食が進行しました。一部ではルーバーが崩れるなど、老朽化による傷みが顕著になり、建物の安全性確保が喫緊の課題となっていました。

老朽化が進んだ那珂川町馬頭広重美術館の木製ルーバーと外観老朽化が進んだ那珂川町馬頭広重美術館の木製ルーバーと外観

アルミ改修への経緯と理由

那珂川町は2024年2月、美術館の改修を決定しました。当初、改修に高額な費用がかかると報じられた際には、町に対し批判的な声も多く寄せられました。改修計画を進める中で、隈氏側と協議を行い、当初は木製のルーバーで再度葺き替える案が検討されました。しかし、この場合の工事費は2億円を超える見込みとなり、さらに約10年ごとに必要となる防腐用塗料の塗り直しに、1億円近くの維持費用がかかることも判明しました。

これらの状況を踏まえ、町は最終的に、初期の工事費用は約2000万円ほど割高になるものの、耐久性に優れ、将来的なメンテナンスコストや腐食の心配が大幅に少ないアルミ製の建材で屋根部分を代用することを決定しました。外観の風合いを可能な限り維持するため、アルミ材には木目調の特殊加工が施される予定です。なお、外壁部分には引き続き杉のルーバーが使用されます。工事は本年7月に開始され、来年2月までに完了する計画です。

町長のコメント

今回の改修方針について、那珂川町の福島泰夫町長は以下のように説明しています。「老朽化による安全性の確保が最優先課題であり、改修を決断しました。(隈氏の事務所からは)アルミを使う方法も代替案として提案を受けました。将来的な維持コストの削減と、腐食しないという安全性を総合的に判断し、初期工事費は少し高くなりますが、アルミ製を採用することにいたしました。外観につきましては、可能な限り木本来の風合いに近づける加工を施すと伺っております。」

参考資料