米価高騰の裏側:問われる米卸利益と流通構造の課題

米価の高騰が続き、米卸業者への厳しい目が向けられています。特に小泉進次郎農水相が国会で、ある米卸大手の営業利益が前年比500%増は異常だと答弁したことは大きな波紋を呼びました。一部の企業が不当な利益を得ているかのように見えますが、この問題の根源はむしろ米の流通における業界構造にあると考えられます。本記事では、この利益増加の実態と、構造的な課題について掘り下げます。

木徳神糧の利益増加とその主張

小泉農水相の発言は、上場米卸企業である木徳神糧を念頭に置いたものと見られます。同社の2025年1-3月期の米穀事業営業利益は、前年同期比で約5倍となりました。これに対し、木徳神糧は6月11日に異例の声明を発表。「市場価格の吊り上げ、買い占め、出し惜しみによる流通阻害は一切ない」と強く否定しました。彼らは、自社の市場シェアはわずか4%程度であり、市場全体を左右する力はないと主張しています。

日本の米価高騰の背景にある流通構造を示すイメージ画像日本の米価高騰の背景にある流通構造を示すイメージ画像

木徳神糧の増益は、「安価に仕入れて適正価格で販売する」というビジネスの基本原則に従った結果だといえるでしょう。実際、農協などの出荷業者と卸売業者の間の相対取引価格は、政府の備蓄米放出決定を受け2025年3月には前月比約2%下落しました。一方で、スーパーでのコメの平均価格は2月初旬の5キロ3700円台から3月には4000円を超え、10%以上の顕著な上昇を見せています。卸売業者にとっては、この状況下で価格転嫁を行いやすい環境だったのです。

粗利率から見る「暴利」の実態

営業利益5倍でも粗利率はどのように推移したのでしょうか。木徳神糧のデータによれば、粗利率は6.3%から9.2%に上昇しました。しかし、経済産業省が実施する「商工業実態基本調査」によると、卸売業全体の平均粗利率は11.8%です。つまり、木徳神糧は大幅な増益を達成したにもかかわらず、その粗利率は卸売業界の平均水準にすら達していません。この数値から判断する限り、同社が市場で「暴利をむさぼっている」と断じるのは難しいといえるでしょう。

結論として、木徳神糧の営業利益が大幅に増加したことは事実ですが、それはビジネスの基本に忠実な行動と、市場の価格転嫁環境によるものであり、粗利率を見ても業界平均以下です。今回の米価高騰と卸売業者の利益に関する議論は、個別の企業の行動以上に、日本のコメ流通が抱える構造的な課題に光を当てる機会といえます。小泉農水相が、この複雑な流通構造にどう切り込み、変革を実現できるかが、今後の米市場安定の鍵となるでしょう。

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