参院選の前哨戦とされた東京都議選では、自民党が歴史的な大敗を喫しました。石丸伸二氏の「再生の道」や、れいわ新選組、日本保守党などのミニ政党、そして日本維新の会も軒並み議席を獲得できませんでした。こうした状況の中、東京都議会に初めて議席を得て、“大勝利”とも言える成果をあげたのが「参政党」です。一体、何が起きているのでしょうか?
参政党は今回の都議選で4人の候補者を擁立し、そのうち3人が当選しました。これは当選率75%という高い数字です。特に、世田谷区(定数8)では2位、練馬区(定数7)では3位と、上位で高得票を獲得しています。国民民主党は参政党より多くの9人を当選させましたが、候補者18人の半数が落選しており、参政党は単に数を増やして当たるのではなく、票読みに基づいた擁立戦略をとったことがうかがえます。都議選での参政党の躍進は、今後の国政選挙、特に迫る参院選に向けて大きな注目を集めています。
参政党は、現代表である神谷宗幣氏(元大阪府吹田市議)らによって2020年に結成されました。コロナ禍中の2022年参院選では「反ワクチン」や「ノーマスク」などを主張し、神谷氏が比例代表で当選。結党からわずか2年で国政進出を果たしました。その後も統一地方選挙などを通じて全国に約140人の地方議員を誕生させて地方組織を構築し、昨年の総選挙では比例代表から3人を当選させるなど、その躍進は続いています。そして、7月に控える参院選には、全国45すべての選挙区に候補者を擁立することを発表しています。
参政党代表・神谷宗幣氏の肖像(都議選躍進の背景にある人物)
選挙情勢分析に定評のある政治ジャーナリスト、野上忠興氏は参政党の勢いを以下のように分析しています。「都議選の得票状況を見ると、参政党は参院選でも比例代表で2~3議席、さらに東京選挙区(補欠選挙含め定数7)でも議席を獲得する可能性が出てきました。国民民主党が中道寄りの自民支持層の票を取り込んでいるのに対し、参政党は右寄りの自民票を『食って』伸びている。参政党の躍進は、自民党にとって大きな苦境をもたらす可能性があります。」これは、参政党が自民党を敗北に追い込む「台風の目」になるかもしれないという指摘です。
参政党が自民党支持層の「受け皿」に?
今回の都議選で参政党が掲げた主な主張には、「日本人ファースト」「行き過ぎた外国人受け入れ反対」「外資によるインフラ買収反対」など、ナショナリズムに強く訴えかけるものが含まれていました。神谷代表は、外国人による土地取得問題について、「外国人が無制限に土地を取得できる現状は、外国人自治区の形成や日本人の居住環境の悪化、物価上昇など多くの社会問題を引き起こしている。このままでは、日本の領土の相当部分が外国人に所有される可能性も否定できない」(今年4月2日に提出された質問主意書より)と、その厳格な規制を声高に主張しています。
こうした主張は、「安倍晋三・元首相の死後、自民党から離れた保守層をうまく取り込み、支持を急速に拡大させているのではないか」(自民党保守系議員)との見方を生んでいます。経済的な停滞に対する不満とナショナリズムが結びついて新たな政治勢力が台頭する現象は、現在世界中で見られます。
既に欧州諸国では、「移民排斥」や「自国第一主義」を掲げる政党が勢力を拡大しています。イタリアでは、右派政党「イタリアの同胞」を率いるメローニ首相が登場しました。フランスではマリーヌ・ルペン氏らが率いる極右政党、ドイツでも移民排斥を訴える極右政党が選挙で大躍進しています。米国でもトランプ前大統領が「アメリカファースト」を掲げ、移民排斥政策を進めてきたことは言うまでもありません。
「日本でも物価高騰が収まらない中、こうした不満の受け皿となった参政党が支持をさらに広げ、欧州の極右政党のように『大化け』する可能性もゼロではない」(前出の自民党議員)という声も出ています。都議選世田谷区での望月正謹氏のような初当選は、その可能性を示唆しています。
都議選世田谷区で初当選を果たした参政党の望月正謹氏
実際、神谷代表は本誌『週刊ポスト』の取材に対し、都議選での躍進について文書で以下のように回答しています。「世田谷、練馬については、都議選を目指して2年前から地域での活動を積み上げてきました。そこに、自民党が支持を失ったことによる一定の受け皿機能が働いたと考えられます。また、都民税減税や、移民受け入れ、そして外資によるインフラ買収に対する我々の問題提起が、多くの都民の皆様から支持を得たのだと分析しています。」
参政党の都議選での歴史的な躍進は、単なるローカルな選挙結果に留まらず、今後の日本の政治勢力図に変化をもたらす可能性を秘めています。特に、自民党から離れる保守層の受け皿となりつつあるという指摘は、今後の国政選挙、とりわけ参院選での注目すべき点となるでしょう。経済状況への不満とナショナリズムを背景とした参政党の勢いがどこまで広がるのか、引き続き注視が必要です。