コメの価格高騰が家計を圧迫し、日本の食卓に変化が起きている。特に、これまで主食の中心であったご飯を食べる機会が減っている家庭が増えているという民間の調査結果が明らかになった。興味深いのは、その代わりにパンや麺といった他の主食ではなく、ある「意外なモノ」の消費が増加している点だ。この食生活の変化は、単なる物価高騰だけでなく、現代のライフスタイルや健康意識とも深く関連しているようだ。
スーパーの米売り場。コメ価格高騰と品薄感により、消費者の困惑が感じられる様子
データが示す食卓の変化
調査会社ライフスケープマーケティング(東京)が2025年4月に発表した「食MAP®」データによると、首都圏のファミリー世帯214世帯を対象にした調査で、2025年1~3月の食卓におけるコメメニューの登場頻度が前年同期より減少した世帯は全体の6割近く(127世帯)にのぼった。そのうち、1割超減少した世帯が30%、1割以下の減少にとどまった世帯が29%だった。
これらのコメを食べる頻度が減った世帯で、代わりに食卓に登場する機会が増えたメニューは何だったのか。全体を通して最も増加率が高かったのは、なんとヨーグルトだった。コメの減少率が1割超の世帯ではヨーグルトが2.7%増加(1割以下の世帯でも1.5%増加)しており、増加メニューの中で最も伸びが大きかった。
特に朝食に絞ると、ヨーグルトの増加率は4.9%と顕著で、これに続くポタージュスープ(1.7%)、卵焼き(1.5%)、餅(1.0%)、サンドイッチ(0.8%)などを大きく上回っている。一方、朝食で減少が目立ったのは、ご飯(5.1%減)、おにぎり(4.0%減)、卵かけご飯などの「かけご飯」(3.9%減)といったコメ関連のメニューに加え、みそ汁(3.3%減)や納豆(1.3%減)、煮物(1.2%減)などの和食メニューだった。コメを控える動きが、食卓全体の洋食化を後押ししている様子がうかがえる。
なぜヨーグルトが増えたのか?専門家が分析
コメの代替として同じ主食であるパンや麺ではなく、なぜヨーグルトが増えたのだろうか。食事の時刻に着目する時間栄養学の専門家である愛国学園短期大学の古谷彰子准教授は、この変化について、まず小麦不使用の「グルテンフリー」ブームの影響でパン食が相対的に減っている可能性を指摘する。
さらに古谷准教授は、「糖質制限や高たんぱく質を意識する最近の健康トレンドも背景にある。手軽にたんぱく質を摂取できる点でヨーグルトが選ばれている」と分析。平日の朝食に、ご飯とみそ汁よりもヨーグルトやシリアルを選ぶ人が増えている現状は、コメの価格高騰だけでなく、「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する志向の高まり、つまり朝食をより手軽に済ませたいというニーズの増加が影響しているとみている。価格だけでなく、準備や片付けの手間がかからない手軽さも重要な要因となっているようだ。
ヨーグルト企業の売上データも裏付け
このトレンドは、ヨーグルトメーカーの売上データからも裏付けられている。ヨーグルト市場で首位の明治では、2024年4月以降、主力の「明治ブルガリアヨーグルト」プレーンタイプシリーズの売上が前年同月比で毎月1割ほど増加を続けているという。
森永乳業でも、「ビヒダスヨーグルト」小分け4個パックの2025年1~3月平均売上が前年同期を約2割上回った。担当者はこの大幅な伸びに驚きを示し、「これほど前年の売上を上回ったことはあまりない」とコメント。その理由として、「コメを減らした分、食後のデザートとして満足感を得たり、朝食がコメからパン、さらにヨーグルトへと洋食化が進んだ結果ではないか」と推測している。
コメを食べる時間帯の変化と時間栄養学
ライフスケープマーケティングの調査では、コメのメニューの減少率は夕食が最も低く13%減、昼食は29%減、朝食は33%減だった。これは「朝や昼は控えても、夕食にはコメを食べたい」という生活者の意識が表れていると担当者は分析する。一日の終わりにしっかりコメを食べたいというニーズは根強いようだ。
しかし、時間栄養学の観点からは、理想は逆だという。古谷准教授は、「朝に糖質を摂取することで体内時計がリセットされ、一日を活動的に過ごせる。朝食は脳や体のエネルギー源となるため、コメのように糖質を含む食品が適している」と解説。一方、「夜に多く食べてしまうと血糖値が上がり、寝付きが悪くなる可能性もある」として、夜よりも朝にコメを食べることを推奨する。
まとめ
コメ価格高騰をきっかけとした日本の食卓の変化は、単に価格だけでなく、手軽さや健康志向、そして現代のライフスタイルといった複数の要因が絡み合っていることがわかる。特に朝食において、ご飯の代わりにヨーグルトを選ぶ家庭が増えているのは、これらの要因が集約された結果と言えるだろう。
ただし、古谷准教授は、朝食をヨーグルトだけで済ませることによる糖質不足を懸念しており、「ヨーグルトはたんぱく質源として優れているが、脳や体に必要な糖質もバランス良く摂取することが重要だ。コメの代わりに押し麦などの雑穀類やパスタ、パンなど、様々な選択肢を取り入れ、バランスの取れた食事を心がけてほしい」と訴えている。物価高やライフスタイルの変化が進む中でも、栄養バランスを考慮した賢い食の選択が求められている。
参考資料
- ライフスケープマーケティング「食MAP®」
- 愛国学園短期大学 古谷彰子 准教授
- 株式会社 明治
- 森永乳業株式会社
- 毎日新聞