南米のアルゼンチンとチリに暮らす先住民マプチェ族は、かつて広大な土地で独自の文化を育んできました。しかし、白人社会の進出や産業資本の流入を経て、彼らの生活は一変し、現在も差別や貧困といった多くの困難に直面しています。本記事では、アルゼンチンとチリにおけるマプチェ族の現在の人口や、彼らが現代社会でどのように生活し、どのような問題に直面しているのかを報告します。
現在のマプチェ族の人口と居住地
アルゼンチンの総人口約4700万人のうち、約3%が先住民とされていますが、民族別の詳細な統計はありません。その中でマプチェ族は約30万人ほどと推定されており、主にアンデス山脈沿いの地域に居住しています。都市部で生活するマプチェ族は、普段民族衣装を着ていないため、外見からは区別がつきにくい場合が多いです。
一方、チリの総人口約2100万人の国勢調査によると、マプチェ族は約60万人とされており、人口の約3%を占めています。現在でも特にアウラカニア地方にはマプチェ族が多く集住する地域が見られます。
現代社会におけるマプチェ族の困難
職と教育へのアクセス、根強い差別の壁
プエルト・ナタレスのホステルオーナーによると、マプチェ族の先住民は、十分な学校教育を受ける機会が限られている場合が多く、また白人の雇用主側からの差別や偏見が根強いため、安定した職業に就くことが困難な状況にあるといいます。これは、白人社会の経済構造の中で、マプチェ族が下層階級に置かれがちな一因となっています。
現代のアルゼンチン・チリで差別や貧困に直面するマプチェ族の人々
誇りの喪失と依存症の問題
白人社会の中で厳しい生活を強いられる中で、マプチェ族としての誇りやアイデンティティーを失ってしまう人も少なくありません。その結果、アルコール依存症や麻薬中毒といった問題を抱える人も多いようです。生活の手段がないために、街中で物乞いをする人も増加していると言われています。
街で見られる「物乞い」という現実
チリのパタゴニア地方の主要な港町プエルト・モントでは、海岸沿いの遊歩道や公園が観光客や地元住民で賑わう一方で、その裏側で厳しい現実が見られます。観光案内所の陰で寒風を避けてビール瓶をそのまま飲む中年男性や、商店街の歩行者通路に座り込んで物を売る夫婦など、多くの先住民が厳しい生活を送っています。通行人は彼らに見向きもしませんが、彼らは諦めたような表情で辛抱強く座り続けています。スーパーマーケットの出口で買い物客に小銭を無心する老女の姿も見られます。信号待ちの車の窓ガラスを拭いてチップを得ようとする若い先住民や、ウーバー・イーツなどの宅配を行う若い世代も、ベネズエラ難民と共に先住民が多くを占めています。
プエルト・モントの海辺の公園で時間を潰していた際、わずか1時間ほどの間に4人の先住民から小銭を無心された経験があります。最初は貧相な男性で、金がないと断ると立ち去りました。次にハーブのようなものを売りに来た女性には、酔っ払いのふりをすると諦めました。同年代の高齢の男性がしつこく無心してきた際には、「私は中国人だ(Soy chino)」と言うと、中国人はケチで小銭を惜しむというイメージがあるためか、諦めて立ち去りました。最後に小学校低学年くらいの少女が無表情で金銭を要求し、片手で手を掴んできました。もう一方の手には売り物のハーブの束を持っています。外国人は金持ちだから金を出すべきだというスペイン語でまくし立てるようでしたが、分からないふりをすると英語を話せるかと迫られました。面倒に感じ、「私は中国人だ」と繰り返すと、舌打ちをして唾を吐き捨てて立ち去りました。このように、都市部では物乞いが日常的な光景となっています。
まとめ
アルゼンチンとチリに暮らすマプチェ族は、現在も数十万人規模の人口を有していますが、現代社会において深刻な社会問題に直面しています。教育や安定した職業へのアクセスが限られ、根強い差別や偏見に苦しんでいます。これにより、彼らの多くは貧困層に留まらざるを得ず、アイデンティティーの喪失や依存症といった問題も発生しています。その結果、都市部では生活のため物乞いをする人々の姿が頻繁に見られるなど、マプチェ族が抱える困難な現状は深く、南米における先住民の厳しい状況を浮き彫りにしています。
Source: https://news.yahoo.co.jp/articles/98523d823362eecfdb823fe0368ac4ac004c054c