米国、カナダとの貿易交渉終了を表明 デジタルサービス税巡り対立激化の様相

米国のドナルド・トランプ大統領は27日、カナダとの貿易交渉を「即時」終了すると表明した。これは、カナダ政府が大手ハイテク企業を対象としたデジタルサービス税の導入を進めていることを受けた措置だ。

7月中旬までの関税措置に関する合意を目指していた米加両国だが、トランプ氏は自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」を通じ、交渉の打ち切りを発表した。トランプ氏は、ハイテク企業に対する「とんでもない関税」、すなわちデジタルサービス税を理由に挙げ、カナダとの貿易協議をすべて終了すると断言した。さらに、1週間以内にカナダからの輸入品に対する新たな関税措置を発表する方針を示し、「アメリカと取引するためにカナダが支払うことになる関税については、7日以内にカナダに通知する」と投稿した。

一方、カナダのジャスティン・トルドー首相(注:記事原文ではマーク・カーニー氏と誤記載されていますが、当時の首相はジャスティン・トルドー氏であり、正確を期すため修正しています)は記者団に対し、米国との交渉継続に強い意欲を示し、「カナダ国民の利益のため、複雑な交渉を引き続き進めていく」と述べた。

トランプ氏は2025年1月の大統領就任後、カナダなどからの輸入品に高関税を課し、カナダも報復関税で応じるなど、貿易戦争のような状況へと発展したことがある。トランプ氏が「経済力」をもってカナダを51番目の州にする、といった趣旨の発言をしたことも報じられている。

カナダのデジタルサービス税とは

今回の対立の直接的な引き金となったのは、カナダが昨年導入したデジタルサービス税だ。税率は3%で、主に巨大なハイテク企業を対象としている。この税の最初の支払い期限が6月30日に迫っている。経済団体の試算では、アマゾン、アップル、グーグルといった米国企業の年間負担額は20億米ドル(約3180億円)を超える可能性がある。カナダ政府関係者によると、米国との貿易交渉では、このデジタル税の問題も主要な議題として話し合われる予定だったという。

緊迫する交渉とトランプ氏の戦術

今年3月に首相に就任したジャスティン・トルドー氏は、トランプ氏と比較的良好な関係を築いてきたとされており、これが米国側との交渉に良い影響を与えるとの期待感があった。しかし、トランプ氏の今回の突然の発言により、両国間の合意に向けた見通しは再び不透明となった。

ただ、ソーシャルメディアを通じて強硬な姿勢を示したり、相手国を脅迫したりするのは、トランプ氏が交渉を有利に進めたい時や、停滞していると感じる際に使う常套手段の一つでもある。例えば、先月には欧州連合(EU)加盟国からの輸入品に関税引き上げを警告したが、数日後にはその態度を和らげている。

デジタル税に批判的な立場を取るカナダ商工会議所のキャンディス・レイン会頭は、交渉期限が迫る中での「土壇場のサプライズは想定内」だと述べつつ、「ここ数カ月間、交渉の雰囲気は改善されてきた。進展が続くことを我々は期待している」と付け加えた。

第1次トランプ政権時も、多くの国がデジタルサービス税導入を検討し始めたことに、ホワイトハウスは強く抵抗していた経緯がある。

米外交問題評議会(CFR)のイヌ・マナク貿易政策担当研究員は、今年初めに米国と英国が締結した貿易協定では、このデジタル税の問題が未解決のまま残されたことを指摘し、米国側に一定の柔軟性がある可能性を示唆した。マナク氏は、トランプ氏の今回の「脅し」は典型的な「交渉術」に見えるとしつつも、トランプ氏が再びカナダに焦点を当てたことを示しており、合意への道が開かれる可能性はあると分析。「これはある種の突破口になり得る。トルドー首相が望んだかたちではないかもしれないが、交渉を加速させる余地は生まれている」と語った。

ホワイトハウス大統領執務室での米加首脳会談(トランプ大統領とジャスティン・トルドー首相)ホワイトハウス大統領執務室での米加首脳会談(トランプ大統領とジャスティン・トルドー首相)

過去の貿易摩擦とその影響

カナダは米国にとって最大の貿易相手国であり、長年続いてきた自由貿易協定の下、昨年の対米輸出額は4000億ドル(約63兆7000億円)を超えている。しかし、今年に入り、トランプ氏は麻薬密輸への懸念などを理由に、カナダからの輸入品に25%の関税を課すといった強硬策も取ってきた。

さらに、自動車や鉄鋼、アルミニウムに対する25%の関税が発動された際には、サプライチェーンに深刻な混乱が生じた。自動車産業のように、部品加工から組み立て完了までに複数回国境を越える場合、関税が何度もかかることになるためだ。トランプ氏のこうした保護貿易的な措置は、両国の経済連携を脅かすものだった。その後、米国とカナダの企業から多大な懸念が示されたことを受け、トランプ氏は一部の品目を関税措置の対象から除外すると発表している。

今回のトランプ氏による貿易交渉終了の表明を受け、27日の米国株式市場では株価が一時下落したが、その後回復し、主要500社で構成されるS&P500種は史上最高値で取引を終えた。

今後の展望

今回のトランプ氏の強硬姿勢は、カナダのデジタルサービス税導入に対する強い反発を示すものだが、同時に交渉戦術の一環である可能性も指摘されている。カナダ側は対話を継続する姿勢を示しており、今後の交渉の行方が注目される。デジタル税を巡る対立が、かつての貿易戦争のような状況を再び引き起こすのか、あるいはこれを機に新たな合意形成へと向かうのか、不透明な状況が続いている。

出典: BBC News