フィリピンJPドラゴン「ヨシオカ」逮捕:裏社会のドン拘束も残党の闇は続く

フィリピンの首都マニラに詳しい日本人たちの間に衝撃が走った。「ヨシオカ」という名が現地の裏社会で20年以上暗躍してきた″黒幕″として知られていたからだ。今回、その「ヨシオカ」が遂に拘束されたことで、組織の弱体化が期待されている。JPドラゴンと呼ばれる彼らのグループは、特殊詐欺や恐喝、美人局といった様々な犯罪に関与してきたとされる。しかし、この拘束がフィリピンにおける日本人犯罪組織、特にJPドラゴンやルフィ強盗団の残党の活動を完全に終わらせるわけではない、という現実もまた存在する。

JPドラゴンとは?ナンバー3が語る実態とルフィとの関係

JPドラゴンとは一体どのような組織なのだろうか。リーダーである吉岡の拘束に先立ち、JPドラゴンのナンバー3である小山被告は、入管施設に収容されていた際に面会した筆者に対し、その実態の一部を明かしている。「メンバーは10人ぐらい。フィリピンにきちんと税金を納めている″会社″だ」と、表向きの顔について語った。

フィリピンJPドラゴン「ヨシオカ」逮捕:裏社会のドン拘束も残党の闇は続くフィリピン・マニラで拘束されたJPドラゴン幹部ナンバー3の小山被告(2024年1月)

また、ルフィ強盗団幹部の今村磨人(41)との関係についても触れ、「同じ北海道出身だから、日本にいたころから知っていた。今村が原宿署に勾留されていた時に、弁護士を通じてビデオ通話もした」と、繋がりを認めている。一方、吉岡については「全然普通の人。悪党だとか人を殺しているとか言われますが、あり得ない」と擁護の姿勢を見せていた。

裏社会での暗躍:美人局から脅迫まで

入国管理局のビアド長官は、吉岡の拘束によって「フィリピン国内における彼らの拠点を事実上、解体した」との声明を発表した。確かにリーダーの拘束は組織に打撃を与える可能性はあるが、マニラの″不良邦人″たちの歴史を考えると、それで「解体」と言い切れるほど単純ではない。吉岡の名前が初めて聞かれたのは’90年代後半に遡る。当時の現地法人の社員は、「表の仕事として重機のレンタル会社で働いていたが、裏では暴力団との繋がりが指摘されていた。派手な出で立ちで、知人の日本人経営者たちが脅迫を受け、カネを搾り取られたと聞く。とにかく危険な存在という印象」と振り返る。

’00年代には、マニラの夜の歓楽街で日本人観光客が美人局の被害に相次いだ。若いフィリピン人女性をホテルに連れ込んだ後、警察官を名乗る人物が現れ、「未成年とのわいせつ行為だ」などと因縁をつけ、逮捕回避の見返りに多額の金銭を要求するという手口だ。この一連のトラブルの裏にも、吉岡の影がちらついていたとされている。

長井秀和氏も被害に

元芸人で、現在は西東京市議会議員を務める長井秀和氏(55)も、この美人局事件の被害者の一人だ。’07年5月、長井氏は現地で少女へのわいせつ行為を理由に警官を名乗る男らに詰め寄られ、1100万円を指定口座に振り込んだ。この際、長井氏に女性を斡旋したのが吉岡の子分のIだったと言われている。長井氏は現地でIと会ったものの、吉岡自身は表に出てこなかった。実行犯ではないため、事件への直接的な関与を示す証拠はないものの、常に影の存在として暗躍していたのだ。吉岡は、現地の捜査機関や有力者とのコネクションを「免罪符」とし、自身の側近たちを恐喝に加担させていたとみられる。

「解体」には程遠く:フィリピンに残る悪党たち

入管幹部は、「吉岡は、捕まった現場のパンパンガ州で絶大な政治的影響力を持つ有力者と繋がっている」と断言しており、その人物が便宜を図れば、今後吉岡が釈放される可能性も否定できない。また、吉岡は投資詐欺を働いたとしてフィリピン人起業家から現地で訴えられているため、すぐに強制送還されるかどうかも不透明な状況だ。仮に吉岡が日本へ送還されたとしても、フィリピン国内には未だ、JPドラゴンやルフィの残党たちが潜伏し、活動を続けている。

ナンバー2「Y」と「女版JPドラゴン」の存在

その代表格が、先に触れたJPドラゴンのナンバー2とされる「Y」だ。彼は’23年4月、警察官になりすまして埼玉県在住の当時89歳男性からキャッシュカード4枚を盗んだ事件で、指示役を務めた疑いが持たれている。当時、Yは小山被告ら10人以上と共謀して犯行に及んだとされる。現地事情に詳しい在留邦人によると、「Yは表向きは吉岡のビジネスパートナー。一緒に闘鶏をやりつつ、その裏で特殊詐欺で日本から運び込まれたカネを仲間に振り分けていた。吉岡が逮捕されても、彼がフィリピンの地から日本人相手に恐喝や詐欺をやり続けるだろう」という。

フィリピンJPドラゴン「ヨシオカ」逮捕:裏社会のドン拘束も残党の闇は続く埼玉県での特殊詐欺事件で逮捕状が出ているJPドラゴンナンバー2「Y」とされる人物のパスポート写真

さらに、5年前からフィリピンに潜伏する静岡県出身の日本人女性I(34)は、「女版JPドラゴン」なる組織を結成しているともいわれている。Iを知る元かけ子(詐欺の電話役)は、「金融庁の職員を装って電話をかけるのがめちゃくちゃうまかった」と証言している。

潜伏犯の現状と今後の課題

筆者が入手した強制送還対象リストと照合すると、まだ10人ほどの日本人犯罪者がフィリピン国内のどこかに身を潜めている。前出の入管幹部は「今もYたちの追跡を続けてはいるが、有力情報がないのが現状」と語り、捜査の難しさを認めている。フィリピンでは今年だけでもすでに特殊詐欺犯10人以上が拘束されているが、彼らがフィリピンを逃亡先に選ぶ理由の一つに、隠れ家などを仲介する人物が国内にいることが挙げられる。昨年7月には、カンボジアを拠点にしていた日本人男4人がマニラで拘束されており、東南アジアに散らばっていた特殊詐欺犯がフィリピンに高飛びしていた実態も判明している。今後はさらに国外から犯罪グループが流入してくる可能性もある。

裏社会のドンを拘束するという大きな一歩は踏み出されたものの、フィリピンにおける日本人特殊詐欺犯の撲滅には、まだ多くの時間と努力が必要なのが実情だ。そして、今回拘束された吉岡もまた、あらゆる手段を使い、いずれ″故郷″とも言えるフィリピンに戻ってくる可能性も指摘されている。


参考文献:

  • FRIDAY 2025年7月11日号 / FRIDAYデジタル (取材・文:水谷竹秀 / ノンフィクションライター)