車の心臓部であるエンジンは、精密な部品の集合体であり、トラブル時の修理費は高額になりがちです。愛車を長く大切に乗りたいと考えるドライバーの中には、エンジンへの負担を減らそうと、常にエンジン回転数を低く保ち、早めにシフトアップすることを心がけている方もいるかもしれません。しかし、本当に低回転走行はエンジンにとって最も優しい方法なのでしょうか?また、逆に「高回転」まで回す運転は、本当にエンジンに悪い影響を与えるのでしょうか?この記事では、エンジンの健康と寿命にとって何が最善なのか、その真実に迫ります。
エンジン「レッドゾーン」は壊れる領域ではない
まず理解しておきたいのは、エンジンのタコメーターにある「レッドゾーン」の意味です。この赤い範囲は、そのエンジンがメーカーによって定められた「許容回転数」の上限を示しています。つまり、適切な定期メンテナンスが行われている車両であれば、レッドゾーンに達する、あるいはその手前までエンジンを回したとしても、それだけでエンジンが直ちに壊れてしまうということは基本的にありません。レッドゾーン以下の回転数での使用は、設計上の許容範囲内なのです。
なぜ定期的な「高回転」走行がエンジンに良いのか?
では、専門家が定期的な高回転走行を推奨する理由は何でしょうか。最も大きな理由の一つは、エンジン内部に蓄積する「カーボンデポジット」と呼ばれる燃えカスや汚れの除去です。エンジンをしっかりと高回転まで回すと、燃焼室や排気系が高温になり、排気の勢いも増します。この熱と勢いによって、付着したカーボンデポジットを燃焼させたり、剥がして排気と一緒に排出したりする効果が期待できるのです。
定期的な高回転走行でエンジン内部のカーボンを除去し、コンディションを維持するイメージ逆に、常に低回転ばかりを使っていると、エンジンが十分に高温にならず、排気の勢いも弱いため、カーボンデポジットが溜まりやすくなります。これが進行すると、エンジンの燃焼効率が悪化したり、不調の原因になったりする可能性もゼロではありません。特にMT車で、極端に低い回転数で無理に高いギアに入れるような運転は、エンジンに負荷をかけるだけでなく、カーボン蓄積を招きやすいと言えます。
エンジン部品の「馴染み」を促進する効果も
さらに、エンジンは多くの精密部品で構成されています。定期的に様々な回転域、特に高回転域まで使用することで、各部品がよりスムーズに「馴染み」、抵抗が減っていく効果も期待できます。これは、エンジンを「育てていく」という表現をされることもあり、結果としてエンジン全体がより円滑に、特に高回転域で気持ちよく回るようになることにつながります。
したがって、エンジンの健康を長期的に維持するためには、アクセルを控えめに、常に低回転を保つ運転だけが正解ではありません。むしろ、安全な状況下で定期的にエンジンを高回転域までしっかりと回してあげることの方が、内部のカーボン除去や部品のコンディション維持に繋がり、結果としてエンジンのパフォーマンスを保ち、寿命を延ばすために有効であると言えるでしょう。愛車を大切にするなら、時として「回してあげる」ことも重要なメンテナンスの一部なのです。