グラストンベリー出演ボブ・ヴィラン、「イスラエル国防軍に死を」発言で波紋広がる

英国最大の音楽フェスティバル「グラストンベリー」に出演した英パンクデュオ、ボブ・ヴィランのライブパフォーマンスが、国際的な波紋を呼んでいます。6月29日に行われたライブ中、ボブ・ヴィランがイスラエル国防軍(IDF)に対する過激な発言を観客に唱和させた様子が、BBCのライブ中継で放送され、物議を醸しています。この出来事は、音楽、政治、表現の自由といった多岐にわたる論争に発展しています。

ライブでの問題発言とその詳細

ボブ・ヴィランのパフォーマンス中に起きた事態は、バンド自身のソーシャルメディアへの投稿でも確認されています。バンドはライブステージから「パレスチナ人を解放せよ(Free Palestine)」と観客に呼びかけ、多くの観客がこれに唱和しました。さらに、バンドメンバーは「これは聞いたことがあるか」と問いかけた後、「イスラエル国防軍に死を(Death, death to the I.D.F.)」と繰り返し唱え、観客もこれに続きました。この「IDFに死を」という直接的な表現が、その後の大きな波紋の引き金となりました。

グラストンベリー・フェスティバルでパフォーマンス中の英パンクデュオ、ボブ・ヴィラン。物議を醸したライブでの発言に関する記事。グラストンベリー・フェスティバルでパフォーマンス中の英パンクデュオ、ボブ・ヴィラン。物議を醸したライブでの発言に関する記事。

グラストンベリー主催者とBBCの反応

問題の発言を受けて、グラストンベリー・フェスティバルの主催者は迅速に声明を発表しました。フェスティバル側は、ボブ・ヴィランの発言が「著しく一線を越えている」と強く批判し、フェスティバルは反ユダヤ主義やヘイトスピーチ、暴力の扇動を許容しない姿勢を明確にしました。

公共放送であるBBCも、翌30日に声明を発表。ライブ中継されたパフォーマンスに含まれていた発言を「深刻かつ攻撃的なコメント」と位置づけ、これを「反ユダヤ的感情」を含むものだと指摘しました。BBCは表現の自由を尊重する一方で、暴力の扇動には断固として反対するという立場を表明。ライブ中継を中断すべきだったとの見解も示し、当該パフォーマンス映像はBBC iPlayerのオンデマンド配信から削除されました。

ボブ・ヴィラン側からの釈明と他のアーティストの擁護

批判が高まる中、ボブ・ヴィランは6月30日と7月1日にバンドとしての声明を発表しました。バンドは、「我々はユダヤ人、アラブ人、あるいは他のいかなる人種や属性の人々の死を願っているのではない」と釈明。彼らの発言は、特定の破壊的な軍の廃止を求めたものであり、ガザの大部分を破壊し、助けを待つ罪のない市民を殺戮するよう兵士に命令したとされるイスラエル軍に対する批判であると主張しました。

また、グラストンベリーに出演したユダヤ人アーティストであるグランドソン(ジョーダン・ベンジャミンさん)も、自身のインスタグラムでボブ・ヴィランを擁護しました。グランドソンは、「ユダヤ人アーティストとして、無差別暴力を実行するイスラエル軍への批判と反ユダヤ主義とを混同することに憤りを感じる」と述べ、ボブ・ヴィランの発言は正当な軍事行動への批判であるとの見解を示しました。グランドソンは秋のアメリカツアーでボブ・ヴィランを前座に迎える予定であることも明らかにしました。

広がる波紋と今後の影響

この騒動は、今後のボブ・ヴィランの活動にも影響を与えています。7月5日、6日にマンチェスターで予定されているライブ公演について、地元のユダヤ系団体である「ユダヤ人代表評議会」が会場側に中止を求めています。マンチェスター警察は、違法性のある行動や発言に関する通報があれば即時に対応するとの声明を出しており、今後の公演が実施されるかどうかに注目が集まっています。

事態はイギリス国内にとどまらず、アメリカにも波及しました。クリストファー・ランドウ米国務副長官は自身のXアカウントで、米国務省がボブ・ヴィランのビザを取り消したことを表明しました。これは、ライブでの発言が米国の移民法や安全保障に関する基準に抵触した可能性を示唆しており、国際的なアーティスト活動に対する政治的、社会的な圧力の高まりを浮き彫りにしています。

ボブ・ヴィランのグラストンベリーでの発言は、単なる音楽フェスティバルでの出来事にとどまらず、現代社会における政治的発言の自由、表現の限界、そして特定の紛争に対する国際社会の反応といった複雑な問題を提起しています。イスラエルとパレスチナを巡る対立が続く中、アーティストの政治的メッセージがどのように受け止められ、どのような結果を招くのか、今回のケースは国際的に注目される事例となっています。