埼玉県で発生した頭蓋骨殺人事件で逮捕された斎藤純容疑者(31)。彼の過去には、事件に繋がる可能性が示唆される複雑な生い立ちがあった。特に、輸血を禁じる新興宗教「エホバの証人」の環境で育ったこと、そして敬愛していた兄の突然の死が、彼のその後の人生に大きな影響を与えたと見られている。この事件の背景を探る。(全3回の2回目)
1994年に次男として生まれた斎藤容疑者は、両親と兄の4人家族で、さいたま市内の穏やかな住宅街で育った。地元の知人は、斎藤家の両親が近くで飲食店を経営し、地域住民から親しまれていたことに触れ、「とてもあたたかい家庭でしたよ」と語っている。しかし、その家庭環境には、外部からは見えにくい側面があった。
「宗教3世」としての葛藤と異変
斎藤容疑者は、母方の祖父母と母親が「エホバの証人」の熱心な信者であり、自身はいわゆる「宗教3世」として育てられた。10代の頃からの親友であるA氏によると、思春期を迎えた彼は、その信仰と自己の内面との間で激しい葛藤を抱えていたという。特に、彼はナイフや武器といった「血」を連想させるものに強い関心を持っていたが、家庭では「血を避けなさい」という教義が絶対だった。「心の中にナイフが好きな自分と、それを許せない自分がいて、混乱する」と、斎藤容疑者はA氏に悩みを打ち明けていた。
この内面の混乱は、中学時代のある出来事として表面化する。お金の貸し借りを巡る些細な口論がエスカレートし、同級生の首を安物のナイフで刺すという事件を起こしたのだ。幸い大事には至らなかったが、A氏は「今にして思えば、抑圧された好奇心の反動だったのかもしれない」と振り返る。この頃、斎藤容疑者の「エホバへの憎しみ」を決定づける、さらに大きな悲劇が起こる。
兄の事故死と「エホバのせい」という認識
斎藤容疑者には、バンド活動を通して多くの友人に囲まれ、彼自身も憧れていた兄がいた。その兄が、バイク事故で突然命を落としてしまう。斎藤家を知る地元の飲食店店主は、兄弟が共に好青年であったこと、そして兄の死後、両親の店が休業していた当時の様子を証言している。兄の事故について、斎藤容疑者は親友A氏に衝撃的な心情を吐露している。
「兄貴は脳みそが出てしまうほど重傷だった。そんな状態でもエホバは輸血を禁じているから、十分な治療を受けられなかった。輸血していれば助かったかもしれない……。両親は兄貴の命より、エホバの教えを優先したんだ」
斎藤純容疑者の写真:宗教による葛藤と生い立ちに関連(知人提供)
A氏は、「純は『エホバのせいで兄貴が死んだ』と認識していたし、そう口にしていました。憧れの兄の死に直面し、やり場のない怒りをぶつけているようにも見えた」と語り、兄の死が斎藤容疑者に深い影響を与えたことを示唆した。地元の中学を卒業後、斎藤容疑者は都内の高校に進学。高校卒業後はフリーターとして様々な職を転々としたが、長続きしなかった。その中で比較的長く続いた仕事の一つが、地元の病院での清掃アルバイトだったという。
結論として、斎藤純容疑者の背景には、「エホバの証人」という特定の宗教環境での生育による内面的な葛藤、特に輸血を禁じる教義と兄の事故死が深く関わっている可能性が、親友らの証言から浮かび上がってくる。これらの要因が、その後の彼の行動や心理状態に影響を与えた一因となった可能性が指摘されている。