7月3日に公示される参院選は、政権の枠組みにも影響を与えうる、いつになく重みのある選挙となります。今回の選挙における経済政策の中心的な争点は、足元の物価高への対応策として、与党が掲げる給付金と野党が掲げる消費税減税の優劣を問う構図となっています。しかし、この論争は本質を見誤っており、議論が矮小化されているとの指摘があります。本来、この国が将来に向けて目指すべき姿を踏まえた、骨太な成長戦略を各党が競い合うことこそが期待されるべきではないでしょうか。
給付金と消費税減税:短期対策の限界とコスト
給付金は、進行する物価上昇へのごく短期的な対応策として位置づけられています。一方、消費税減税は物価高対策との名目で提案されていますが、長きにわたる個人消費の低迷に終止符を打つ狙いからも支持する声が少なくありません。特に立憲民主党が公約に掲げる食料品への原則1年間のゼロ税率は、一度税率を引き下げれば、再び元の水準に戻すことが極めて難しく、時限的な消費税減税は恒久化しやすい性質を持つことが指摘されています。
参院選の経済政策論争、給付金と消費税減税を巡る議論
しかし、消費税減税による景気浮揚効果は一時的なものである可能性が高い一方、その政策コストは非常に大きいと考えられます。このコストの代表的なものが、社会保障費の基礎的財源を大きく棄損してしまうこと、また財政赤字や政府債務を一層拡大させてしまうことです。これは、やや長い目で見れば日本経済の潜在力を低下させてしまう可能性を伴います。つまり、コストが非常に大きい割には、その効果が限定的である可能性が高い政策と言えるでしょう。
経済停滞の根本原因:成長戦略と構造改革の必要性
個人消費の低迷や、将来に対する明るい展望を持つことが困難な状況が長年続いてきた根本的な原因は、労働生産性の上昇率が低迷していることを背景にした、実質賃金の上昇が見込みにくい状況にあると考えられます。この構造的な課題を解決するためには、企業の設備投資を促進し、将来に向けた経済成長への期待を高めるような中長期的な取り組み、具体的には労働生産性を向上させるための地道な構造改革や成長戦略を実行していくこと以外に有効な道はないのではないでしょうか。
「易きに流れる」政策選択への警鐘
経済や国民生活の状況を改善しようとする際に、国民は往々にして簡単で手っ取り早い手段を選択する方向に傾きやすい、いわば「易きに流れる」傾向があります。近年、日本銀行による積極的な金融緩和を行えばデフレを脱却できる、政府が積極財政を行えば経済成長率は持続的に高まる、あるいは円安が進めば物価高傾向が高まり個人消費が回復するといった主張がありましたが、いずれも誤りであったことが次々と証明されています。消費税を減税あるいは廃止すれば、日本経済が一気に活力を取り戻すといった主張も、こうした「易きに流れる」考え方の延長線上にあると言えるでしょう。それは多くの国民にとって魅力的に聞こえるかもしれませんが、実際にはそのような劇的な変化は期待できないと思われます。有権者に対し、安易な期待や幻想を抱かせることは、政策論争として問題が大きいと考えられます。
今夏の参院選では給付金や消費税減税といった目先の対策が注目されていますが、より重要なのは、日本の経済が抱える構造的な課題、特に低迷する労働生産性と実質賃金の問題にどう向き合い、克服していくかです。短期的な対症療法に終始するのではなく、将来の国家像を見据えた骨太な成長戦略や構造改革にこそ、国民全体の目が向けられるべき時です。安易な解決策に頼るのではなく、地道な取り組みこそが、長期的な経済の活性化に繋がる鍵となるでしょう。
[参照] https://news.yahoo.co.jp/articles/0a29b589c470d4c0c97e80336cfc4d77f0274d1a