昨年10月、北朝鮮外務省が韓国による平壌への無人機侵入と扇動ビラ散布を主張した際、韓国内ではその真偽について懐疑的な見方が支配的でした。優れた監視・偵察能力を持つ韓国が、武力衝突のリスクを冒してまで北朝鮮の首都・平壌に無人機を送る動機は考えにくかったためです。また、尹錫悦政権以前には、韓国政府が無人機を北朝鮮へ送った前例もありませんでした。北朝鮮が主張する「韓国ドローン作戦司令部」の無人機と平壌で確認された無人機に関する新たな分析が、この疑惑に再び注目を集めています。
北朝鮮の主張と初期の懐疑論
北朝鮮は、平壌に浸透した無人機が韓国ドローン作戦司令部の「遠距離偵察用小型ドローン」だと名指しし、墜落した無人機の写真を公開しました。この「遠距離偵察用小型ドローン」は2021年に韓国独自技術で開発されたもので、防衛事業庁によれば「有事の際、敵の縦深地域に密かに浸透し、敵の重要な標的に対する情報を獲得すること」を目的としています。戦時ではなく平時に韓国が平壌に無人機を送る行為は、明白な休戦協定違反にあたります。これは、「ルールに基づいた国際秩序」をしばしば強調する尹錫悦政権の姿勢とも相容れないものでした。そのため、多くの専門家は「北朝鮮の自作自演ではないか」と疑念を表明していました。
ドローン性能が示す不適格性
北朝鮮が指摘した無人機の種類が、実際には北朝鮮領内への秘密浸透任務には適さない性能であったことも、初期の懐疑論を裏付ける要素となりました。共に民主党のプ・スンチャン議員室が入手し公開した軍内部資料「迅速モデル獲得事業21-2次軍事的活用性検討文書」によると、この無人機は騒音が大きく容易に発覚しうるため、実戦での使用は不可能と評価されています。運用高度である2キロメートル上空での騒音実験では、肉眼識別は不可能でも騒音の聴取は可能でした。さらに、この無人機はレーダー電波反射面積(RCS)が広く、レーダーに捕捉されやすいため、RCSを低減するための技術開発に1年以上を要することが判明。結果として、軍当局はこの無人機を性能改善して実戦配備せず、教育訓練用に回すことを決定していました。
平壌上空の異常な飛行経路と証言
北朝鮮が公開した墜落無人機の飛行経路とされる情報では、真夜中に30メートルから690メートルという低高度で平壌上空を飛行したとされています。運用高度よりもはるかに低い高度を、静かな夜間に騒がしい無人機が飛行したとすれば、「私を捕まえてみろ」と挑発するような行為に他なりません。「秘密浸透」という無人機の基本特性とは全く矛盾する動きです。昨年10月、北朝鮮が無人機侵入を主張した際、ロシアのアレクサンドル・マチェゴラ北朝鮮大使はロシアメディアに対し、「実際に10月8~9日午前0時30分頃、平壌市内の上空から無人機が飛んできて、大使館でタバコを吸うためにバルコニーに出た人たちが頭上でドローンの音を聞いた」と証言しています。大使は他の音と無人機の騒音を勘違いした可能性について問われ、「(上空で)少なくとも3周した」、「平壌はその頃、完全な沈黙であるため、間違えようがない」と答えています。
国防科学研究所の決定的分析
このような状況の中、プ・スンチャン議員が武器開発を担う国策研究機関である国防科学研究所(ADD)から提出された資料「ビラ無人機とドローン司令部無人機の形状比較分析」が、事態に新たな光を当てました。同資料によると、国防科学研究所は北朝鮮が公開した無人機の形状が、ドローン司令部が保有する小型偵察無人機と「非常に類似している」と判断しました。国防科学研究所は、独自に研究開発を完了しドローン司令部に無償提供した小型偵察無人機について、北朝鮮公開写真と同じ構図で撮影した写真と、保有する設計図を比較分析しています。
韓国軍ドローン作戦司令部が保有する小型偵察無人機と北朝鮮が公開した平壌侵入主張無人機の形状比較分析資料。国防科学研究所提供。
分析の詳細:形状とソフトウェア
国防科学研究所は、両無人機の左右の主翼、尾翼の形状、胴体の太さ、上部に位置するアンテナとセンサーの形状と位置、胴体下部のビラ散布用とみられる入れ物の形状と位置などを詳細に比較しました。その結果、北朝鮮が公開した無人機は、ドローン司令部が保有する小型偵察無人機と「非常に類似している」と結論付けています。さらに、国防科学研究所は、小型偵察無人機の飛行調整装置のソフトウェアは、製作会社提供のソフトウェアを使用して任務計画やビラ散布装置の作動命令などを容易に構成できると評価しています。プ・スンチャン議員室は、このソフトウェアを正式に運営している機関はドローン司令部だけだと説明しています。
飛行経路の実現可能性
加えて、国防科学研究所は、北朝鮮が公開した無人機の飛行経路(白ニョン島→草島→南浦→平壌)に沿って、ドローン司令部の小型偵察無人機が実際に飛行できるかどうかについても検証を行いました。その結果、この無人機による当該経路の飛行は「飛行可能」であると結論付けています。
結論
国防科学研究所の詳細な分析は、北朝鮮が主張する平壌に侵入した無人機が、韓国のドローン作戦司令部が保有する小型偵察無人機と形状において「非常に類似」しており、さらに主張された飛行経路の実現可能性も示しました。この分析結果は、当初の懐疑論や無人機の性能が「秘密裏の任務」に適さないという点とは矛盾し、無人機が意図的に発見されやすい条件下で使用された可能性を示唆しています。これにより、尹錫悦政権が平壌への無人機侵入を否定しているにもかかわらず、韓国軍による関与、あるいはより深い政治的意図があったのではないかとの疑念が深まっています。
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