カンボジア特殊詐欺拠点、日本人関与と「軟禁」の実態

カンボジアを拠点とした特殊詐欺で、日本人の摘発が相次ぐ。こうした拠点では、入居者が外出を禁じられ、ナイトクラブやカラオケといった娯楽施設まで完備されていると関係者が証言。背景には中国系犯罪組織があり、拠点を含む一帯は中国のような街並みに急速に変化していた。

国境近くの巨大拠点

首都プノンペンから東へ車で2時間半、ベトナム国境まで約3キロのプレイベン州道沿いに、巨大な建造物が出現した。数メートル高の壁に囲まれ、敷地内では多くのクレーン車が稼働し、ゲートをダンプトラックが行き交う。
カンボジアの「詐欺拠点」とみられる広大な敷地。建設車両が出入りする様子。カンボジアの「詐欺拠点」とみられる広大な敷地。建設車両が出入りする様子。

福岡県警が4~5月に摘発した特殊詐欺のリクルーターから仕事を紹介された男性が、この拠点となる敷地内の建物で「かけ子」をしていたとみられる。警察や検察になりすまし、日本の被害者に振り込みを求めていたという。

運転手の男性(39)は、プノンペンからこの「詐欺拠点」に中国人投資家を何度も送迎した。敷地中心部には人工池で囲まれたカジノを建設中で、周囲には低層のオフィスや宿舎が並び、スーパー、カラオケ、ナイトクラブなど「生活から娯楽の全てがそろっていた」と証言した。特殊詐欺に関わっているとみられる入居者らは軟禁状態に置かれ、取引業者などしか出入りできない。
カンボジア・プレイベン州の「詐欺拠点」とみられる建物。敷地内の様子。カンボジア・プレイベン州の「詐欺拠点」とみられる建物。敷地内の様子。

宿舎で生活する人の国籍も様々で、タイやベトナムなど東南アジア出身者のほか、韓国人やオーストラリア人もいると聞かされた。いずれも敷地内のコールセンターに勤務しているという。「あそこが『詐欺拠点』だとみんな知っている」。男性は声を潜めた。

急速な「中国化」と背景にある組織

「元はゴム園が広がるエリアだった。この1年で急速に開発が進んだ」現場に建築資材を搬入する自営業男性(29)はこう語る。男性によると、数年前に中国企業による開発計画が持ち上がり、一帯には中国人投資家が多く訪れるようになった。

「詐欺拠点」の周辺には中国系の病院も建ち、多くの中国料理店が営業しており、これらの店舗では決済に人民元も使用できる場所が多い。背景には、こうした開発や拠点の運営に関わる中国系犯罪組織の存在が指摘されている。日本の警察当局による摘発は進むが、国外に築かれた巨大犯罪拠点の全容解明と対策は喫緊の課題だ。

カンボジアに存在する特殊詐欺拠点は、日本人を含む多数の関与者が半ば「軟禁」され、大規模施設内で組織的に運営される実態が明らかとなった。その急速な発展と中国化は、背後の中国系犯罪組織の強大な影響力を物語る。日本の警察当局による摘発は続く一方で、国外に根を張るこうした巨大犯罪拠点の全容解明と対策は、今後一層重要となる。