東京都議選での議席獲得や国政での政党要件を満たすなど、近年勢力を拡大している参政党。SNSを中心に支持を広げ、「日本人ファースト」などの独自の主張を展開する一方で、2025年5月に発表した新憲法の構想案に対して、専門家や識者、そして一般からの疑問や批判の声が相次いでいます。国民の注目が高まるにつれて、その憲法構想案の持つ特性が波紋を広げています。
勢力拡大の背景と参政党の主な主張
参政党は2020年、神谷宗幣氏らが発起人となって結党されました。2022年の参院選で1議席、2024年の衆院選では比例代表で3議席を獲得するなど、国政での存在感を増しています。さらに、今年に入って地方議会でも議席を伸ばしており、特に2025年6月の東京都議選では一気に3議席を得るなど、参院選に向けて党勢を拡大させてきました。
党の主張は多岐にわたりますが、コロナ禍における反ワクチン的な訴えや、近年の選挙で強調される外国人の受け入れ見直しといった「自国第一主義」に似た右派的な傾向が目立ちます。これに加え、食の安全、消費税の段階的廃止なども掲げ、選択的夫婦別姓には一貫して反対の立場を取っています。参政党の情報はSNSで非常に多く拡散され、保守層のみならず無党派層の一部にも支持を広げていますが、そのユニークで時に急進的な主張は、強い嫌悪感を示す層も生み出しています。
「創憲」を掲げた独自の憲法構想案
良くも悪くも大きな話題を呼んでいるのが、参政党が2025年5月に発表した新憲法の構想案です。現行憲法の「改正」ではなく、一から新しい憲法を作り直す「創憲」を掲げており、この構想案の策定には2年をかけたといいます。
しかし、発表されるやいなや、その内容に対して早速、矛盾点や懸念を指摘する声が噴出しました。
専門家・識者からの強い疑問と批判
インターネット匿名掲示板「2ちゃんねる」創設者の西村博之(ひろゆき)氏は、参政党の憲法案について「規定がないので裁判なしに死刑にすることが可能です。中国もびっくり」とX(旧Twitter)に投稿し、強い懸念を示しました。さらに、「日本国憲法を読んだことがない中学生ならまだしも、ヤバさに気づかないで参政党憲法案を公開してるのが、いい大人なのが驚き」と、その内容とそれを発表した党の姿勢を手厳しく批判しています。
構想案の具体的な内容も、批判の的となっています。例えば、現行憲法では主権が国民にあるとする「国民主権」を明記しているのに対し、参政党案では天皇を「元首」とし、「国」が「主権を有し」と記述しています。また、「国民の要件」として「日本を大切にする心を有することを基準として、法律で定める」といった独自の基準を提示。国防に関しては「自衛軍」の保持を明確にし、さらに報道機関に対しては「義務」を負わせる条項が含まれています。これらの条項は、現行の日本国憲法の思想、特に基本的人権の尊重や国民主権の原則とは大きく乖離していると指摘されています。
これに対してSNS上では、「国民から主権を奪うと言っているに等しい」「基本的人権に関する明確な条項が見当たらない」といった、構想案への拒否反応や疑問の声が多く上がっています。
憲法学者の木村草太・東京都立大教授は、2024年6月26日放送のTBSラジオ番組「荻上チキ・Session」に出演した際、参政党の憲法案について言及し、「どちらかと言うと怪文書のようなものでして、あれを憲法とか憲法改正案だと思っている人はあまりいないと思いますね」と述べ、苦笑を浮かべました。番組司会の荻上チキさんも「今の(国の)形を大きく壊すのは分かるんだけれど、真面目なのかどうか分からない」と困惑した様子を見せました。木村教授は、構想案の内容を「右だの左だの改憲だの護憲だの以前の文章」だと述べ、憲法案として議論する以前のレベルだとばっさり切り捨てました。
参政党代表による反論
参院選が公示された2024年7月3日、参政党の神谷代表は報道陣の取材に対し、構想案への批判に対して反論しました。「国家主権と書いたから国民主権じゃないんだ、というのは間違った解釈だ」と述べ、構想案の意図が国民主権を否定するものではないと強調しました。
さらに、「国民主権を守るためには、国家にちゃんと主権がないといけない」と主張し、強い国家があってこそ国民の権利や主権が守られるという独自の論を展開しました。
参政党代表としてメディア取材に応じる神谷宗幣氏
近年急速に勢力を拡大している参政党ですが、今回発表された「創憲」案は、従来の憲法観や人権概念との大きな隔たりから、識者や一般の間で強い波紋を呼んでいます。党代表は批判に反論していますが、その内容は今後も注目を集め続けるでしょう。
参考資料:
* [Yahoo!ニュース - 「参政党憲法案は、規定がないので裁判なしに死刑に...」ひろゆき氏がドン引きした党独自の「創憲」案に批判相次ぐ](https://news.yahoo.co.jp/articles/211ccb1f909e2d7a7a0b6d410e1ce95d9328e028)