日本の自動車史において、昭和から平成への移行期はまさに「名車豊作」の時代でした。特に、平成元年である1989年と、その前年の1988年には、今日まで語り継がれる数々の象徴的なモデルが誕生しています。この時期は、バブル経済の追い風を受け、自動車メーカー各社が技術の粋を集め、意欲的なモデルを次々と市場に送り出した、自動車業界にとって活気に満ちた時代でした。本記事では、この稀代の名車が生まれた時代背景とともに、1988年と1989年に登場した代表的なモデルに焦点を当ててご紹介します。
昭和末期から平成初期にかけて誕生した日本の代表的な名車が並ぶ光景
平成元年1989年:バブル景気が生んだ傑作たち
1989年1月7日、昭和の時代が幕を閉じ、平成という新しい時代が始まりました。平成が始まった当初はバブル景気が続き、日経平均株価が史上最高値を更新するなど、経済は高揚感に包まれていました。このような状況は自動車業界にも活気をもたらし、特に高級車や高性能スポーツカー、RV車といった高価格帯のモデルの販売が大きく伸びました。1989年は、まさに日本車にとって「ビンテージイヤー」と称されるにふさわしい年であり、今振り返っても多くの傑作車が誕生しています。
日産 パオ (PAO)
平成のトップを飾る記念すべき新型車として登場したのが、日産のパオです。Be-1に続く日産のパイクカーシリーズ第2弾として発表されるやいなや、そのレトロモダンなデザインが大きな話題を呼び、予約が殺到しました。後に続く第3弾のフィガロも同様に人気を博し、限定販売されたモデルは瞬く間に完売となりました。
日産 スカイライン (R32) と フェアレディZ (Z32)
「901活動」と呼ばれる革新的なクルマづくりを進めていた日産は、この時期も積極的に新型車を投入しました。その筆頭が、1989年5月にフルモデルチェンジした8代目スカイライン(R32型)です。デザインのみならず、メカニズムも一新され、同年8月には先進の四輪駆動システム「アテーサE-TS」や2.6Lツインターボエンジンを搭載した「平成のGT-R」ことスカイラインGT-R(BNR32)が登場し、その後の日本のスポーツカー像に大きな影響を与えました。また、フェアレディZも4代目となるZ32型へと進化。これらR32スカイラインとZ32フェアレディZは、登場から30年以上経った今も、多くの自動車ファンに愛される人気モデルです。
トヨタ セルシオ
トヨタもこの時代の流れに乗り、新世代ツインカムエンジンの開発やサスペンション技術の進化に加え、エレクトロニクス技術にも磨きをかけていました。税制改革による自動車税の見直しでビッグカー時代が到来すると予測したトヨタは、世界に通用するプレミアムセダンの開発に着手。そして1989年10月、初代セルシオ(UCF10型)を市場に投入しました。クラウンの上に位置する最高級セダンとして、海外ではレクサスLS400として販売され、その静粛性、乗り心地、高い走行性能は世界の高級車市場に衝撃を与えました。「源流対策」と「技術革新」に力を注ぎ、日本のものづくりの力を世界に示した一台です。
昭和最後の輝き:1988年に登場した人気モデル5選
平成元年の1989年だけでなく、その前年である昭和63年、1988年にも記憶に残る人気モデルが多数登場しています。バブル景気の熱狂が最高潮に達しようとしていたこの年、個性豊かで高性能なモデルが続々と生まれました。ここでは、1988年にデビューした代表的な5つの人気車をご紹介します。
日産 シーマ
社会現象を巻き起こすほどの爆発的なヒットとなったのが初代シーマ(FPY31型)です。セドリック/グロリアをベースとしながらも、流麗で優雅な3ナンバーボディ、豪華な内装、そして圧倒的なパワーを誇るターボエンジンが多くの人々を魅了し、「シーマ現象」という言葉まで生まれました。人気の絶頂期は短かったものの、その後の高級車市場に大きな影響を与えたモデルです。
日産 シルビア (S13)
歴代シルビアの中で、最も多く販売されたのがS13型です。それまでのスポーティー路線から、「デートカー」としてのキャラクターを強調しましたが、FR駆動とターボエンジンの組み合わせにより、走り好きのファンからも絶大な支持を得ました。若者を中心に幅広い層に受け入れられ、ライトウェイトFRスポーツの代名詞となりました。
日産 セフィーロ
「くうねるあそぶ。」という斬新なキャッチコピーが話題を呼んだ初代セフィーロ(A31型)。兄弟車であるR31型スカイラインやC33型ローレルとは異なる、パーソナルセダンとしてのキャラクターを確立しました。「セフィーロ・コーディネーション」と呼ばれるユニークな販売方法も注目を集め、個性を重視する層にアピールしました。
トヨタ マークⅡ/チェイサー/クレスタ (81系)
4年サイクルでモデルチェンジを行っていたマークⅡ3兄弟(マークⅡ、チェイサー、クレスタ)。1988年に登場した81系は、先代70系の正常進化版として開発されました。丸みを帯びた流麗なフォルムと、質感を高めたインテリアが特徴です。豊富なエンジンバリエーションと、セダン・ハードトップなど多様なボディタイプが用意され、幅広いニーズに応えました。
スズキ カルタス (2代目)
GMとの共同開発による世界戦略車として誕生したカルタスも、1988年に2代目(AA44S/AB34S/AB44S/AF34S型など)にモデルチェンジしました。ウエッジシェイプを強調したスタイリングの中でも、大きく湾曲したリアウィンドウが特に斬新でした。モータースポーツでも活躍した高性能モデル「GT-i」もラインナップされ、コンパクトながらも走りの魅力を持つモデルでした。
結論
昭和の終わりから平成の初めにかけての数年間は、日本の自動車産業が技術的にもデザイン的にも大きく飛躍した、非常に重要な時期でした。バブル景気という特別な経済環境が、メーカー各社に革新的なモデル開発を後押しする原動力となったことは間違いありません。今回ご紹介した1988年と1989年のモデルたちは、その時代の熱気と技術力が生み出した傑作であり、今日なお多くの人々に愛され、日本の自動車文化を語る上で欠かせない存在となっています。この時代に生まれた名車たちは、日本の自動車史における輝かしい一章を飾っていると言えるでしょう。
参考資料
- ハチマルヒーロー 2019年5月号 vol.53
- その他、関連情報源 (記事中の内容は掲載当時のもの主とし、一部加筆したものです)