深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」


 超高齢社会が招く“医療現場の危機”とは──東京大学医学部付属病院などで勤務していた熊谷頼佳氏の著書『2030-2040年 医療の真実 下町病院長だから見える医療の末路』(中央公論新社)より一部抜粋して再構成する。【全2回中の第1回】

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 高齢者が増えれば、がんや心臓病、脳血管疾患などで手術が必要になる人も増える。2031年には日本人の平均年齢が50歳を超えると予測されており、今以上に中高年ばかりの国になるのだから、特に人口の多い大都市の救命救急センターや外科系の診療科の需要は増える見込みだ。

 ところが、今の若い医師たちは超過勤務が多く体力的にもきつい救急医や外科医になるのを敬遠する傾向がある。外科系で志望する医師が増えているのは美容外科だけだ。そのため、若い外科医が減って現役の外科医の高齢化が進み、地方ではすでに外科を閉鎖する病院も出てきている。

 地方だけではない。病院が多い東京23区内でも、緊急の外科手術ができる病院が減っているのが実情だ。

 2023年11月には、東京都大田区にある当院でも、60代の入院患者が激しい腹痛を訴え、緊急手術が必要な状態になったが、手術をしてくれる病院がなかなか見つからなかった。専門的には、急激な腹痛が起こり、緊急手術など迅速な処置が必要な状態を「急性腹症」と呼ぶ。盲腸炎、腹膜炎、腸閉塞などが原因である場合が多いが、すぐに手術をして、出血しているところがあれば止血する必要がある。外科手術としては、外科医であれば誰でも経験したことがあるくらい一般的な手術で、4~5年前までは、当院の入院や外来の患者が、急性腹症を起こしても、すぐに外科手術をしてくれる病院が見つかっていた。

 受け入れ先がなかなか見つからないと聞いて驚いたし、焦った。その60 代の患者は何とか一命をとりとめたが、今後、外科医不足がさらに進めば、今までは助かっていた命も助からなくなる恐れがある。



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