通勤ラッシュの時間帯に座席を確保するため、あえて定期券の区間内にある「始発駅」まで逆方向に戻るという行為を見聞きしたことがあるかもしれません。例えば、御茶ノ水駅から八王子駅までのJR中央線快速の定期券を持っている人が、夕方の混雑時にいったん東京駅まで戻り、そこから座って八王子駅へ向かうといったケースです。一見、賢い通勤術のように思えるこの行動ですが、実は鉄道会社のルールに違反する可能性が高く、知らずに行うと大きなリスクを伴います。本記事では、この定期券を使った区間外乗車がなぜ問題となり、どのようなペナルティがあるのかを詳しく解説します。
通勤ラッシュで混雑する電車内の様子。座席に座れない乗客たち。
「改札を出ていないからOK」という誤解
多くの人は、電車の運賃は改札を入った駅と出た駅の間で計算されると考えています。そのため、定期券についても、券面に表示された区間の駅で改札を通り、途中で改札を出なければ、区間外の駅に一時的に戻ったり、遠回りしたりしても問題ないと思い込んでいるケースが見られます。
しかし、これは鉄道会社のルールに関する誤った理解です。定期券は、券面に記載された「区間」を乗車するために発行されるものであり、たとえ改札を出なかったとしても、その区間から外れた経路や区間を乗車すれば、それは不正乗車とみなされます。
前述の例で言えば、御茶ノ水駅から八王子駅までの定期券で東京駅まで戻り、再び八王子駅へ向かう場合、御茶ノ水駅と東京駅の間(往復分)は定期券の区間外乗車となります。この区間外の乗車については、別途、その区間の運賃を支払う必要があります。無賃でこの区間を利用することは、明確な不正乗車にあたるのです。
不正乗車とみなされた場合の深刻なペナルティ
定期券を使って区間外乗車を行い、それが鉄道会社の係員によって不正乗車と判断された場合、利用者は以下のような厳しいペナルティを受けることになります。
定期券の即時没収
まず最も大きなペナルティとして考えられるのが、現在使用している定期券の没収です。JRの旅客営業規則第168条第1項第11号には、「係員の承諾を得ないで、定期乗車券の券面に表示された区間外の区間を乗車したとき」には、その定期券を無効として回収することができる、と明確に定められています。
仮に、御茶ノ水駅から八王子駅までの6ヶ月定期券(金額10万7210円)を購入し、利用開始から2ヶ月後に不正乗車が発覚して定期券を没収された場合、残り4ヶ月分に相当する約7万1400円分の価値が失われることになります。高額な定期券を一瞬で失うことは、家計にとって看過できない大きな損失となるでしょう。
運賃の割増請求
不正乗車に対するもう一つのペナルティは、正規運賃に加えて請求される割増運賃です。旅客営業規則第265条第1項には、「不正乗車があった場合には、乗車した区間の普通旅客運賃に、その2倍に相当する額の増運賃を加えた合計額を請求できる」と規定されています。
これは、本来支払うべきだった運賃の3倍の金額(正規運賃1倍+増運賃2倍)を請求される可能性があるということです。例えば、本来200円の運賃が必要だった区間を不正に乗車した場合、200円+(200円×2)=600円が請求されることになります。定期券の区間外まで頻繁に乗車していたり、遠距離の区間外乗車を繰り返したりしていた場合、この割増運賃の総額はかなりの高額になる可能性があります。
「改札を通らないから大丈夫」「少しだけだから問題ないだろう」といった軽い気持ちで行った行為が、定期券の没収と多額の割増運賃請求という、思いがけない大きな損失につながる危険性があることを十分に理解しておくべきです。
まとめ
通勤ラッシュ時に座席を確保するために、定期券の区間内であっても経路を外れて始発駅まで戻る行為は、「定期区間外乗車」にあたり、不正乗車とみなされる可能性が極めて高いです。不正乗車が発覚した場合、利用者は高額な定期券の没収と、正規運賃の2倍にあたる増運賃を含む割増運賃の請求という、二重の厳しいペナルティを受けることになります。鉄道の利用にあたっては、定期券に定められた正しい区間と経路を守ることが重要です。安易な気持ちでのルール違反が、取り返しのつかない結果を招くことを肝に銘じておきましょう。
参考文献
- JR旅客営業規則(参照元により条項番号が異なる場合があります)
- Yahoo!ニュース掲載記事 (Financial Fieldより)