かつてスバルの軽自動車ラインナップを支えた名車「レックス」の名前が、長い沈黙を経て再び日の目を見ることとなりました。1992年に生産を終了して以来、30年の時を経て2022年に「スバル レックス」として復活したのです。しかし、その姿は多くの人が記憶する軽自動車ではなく、現代の市場で人気のクロスオーバーSUVとして登場しました。しかも、この新型レックスは、スバルが軽自動車の自社開発・生産から撤退し、ダイハツからのOEM供給に切り替えた後のモデルであり、過去のレックスとは異なる位置づけとなっています。この記事では、かつてのレックスの歴史を振り返りつつ、SUVとして復活した新型レックスの実態と、スバルラインナップにおけるその「使命」について深掘りします。
スバル軽自動車の歴史を刻んだ初代~3代目レックス
スバル初の4輪車として知られるスバル360の後継車種として登場したR-2。その流れを受けて1972年に初代モデルが登場したのがレックスです。スバル360から受け継がれたリアエンジン・リアドライブというレイアウトは踏襲しつつも、全車に水冷エンジンを搭載するなど近代化が図られました。
1981年に2代目へと進化すると、駆動方式がフロントエンジン・フロントドライブへと大きく変貌を遂げます。さらに1983年には、路面状況に応じて駆動方式を切り替えられるパートタイム4WDモデルを追加し、走破性を向上させました。また、一部グレードに軽自動車としては初となるフロントベンチレーテッドディスクブレーキを標準装備するなど、先進装備の採用でも話題を集めました。
3代目モデルは1986年に登場。当初は先代と同じ直列2気筒544ccのSOHCエンジンが搭載されていましたが、1989年6月のマイナーチェンジで突如気筒数が倍となる直列4気筒547ccエンジンに換装されました。これを機に、スバルの軽自動車は多気筒エンジンを搭載するという独自の歴史を歩み始めたのです。その後、軽自動車規格の見直しによって660ccエンジンへの変更などが行われましたが、1992年春に後継車種であるヴィヴィオが登場したことで生産を終了し、その名前は一度姿を消すこととなりました。
SUVとして異例の復活を遂げた新型レックス
そして長らくレックスの名前は使用されることはありませんでしたが、突如として2022年11月に復活を遂げます。ただし、復活したレックスは、かつての軽自動車とは全く異なるクロスオーバーSUVとしての登場でした。
この2022年に復活した新型レックスは、ダイハツ ロッキーのOEM(相手先ブランドによる生産)モデルとして供給されています。そのため、車名こそ同じ「レックス」を冠しているものの、かつてのスバルオリジナル軽自動車時代のレックスとの直接的な技術的な繋がりはほとんどありません。スバルのアイデンティティである水平対向エンジンなどは当然ながら搭載されていません。
2022年に復活したスバル新型レックスのフロントビュー。ダイハツ ロッキーのOEMモデル。
さらに、ベースとなるダイハツ ロッキーにラインナップされている1Lターボエンジンや1.2Lハイブリッドモデル、そして4WDモデルといった多様なパワートレインは、新型レックスのデビュー時には設定されず、1.2LのNA(自然吸気)エンジンに前輪駆動(FF)のみという限られたラインナップとなっていました。
新型レックスの復活が持つ「エントリーモデル」としての使命
このようなSUVとしての異例の復活、そしてダイハツからのOEM供給という形態は、同じタイミングで発表された6代目インプレッサが上級移行したことで、スバルの普通車ラインナップにおけるエントリーモデルが不在になってしまったことによる措置であると言われています。実際、現在のスバルの普通車ラインナップの中で、唯一100万円台スタート(発表当時)となるのが、この新型レックスでした。
そういう意味では、かつてスバル自体のエントリーモデルとしての役割を担っていた軽自動車のレックスが果たした「使命」と、現在の新型レックスが担っている「普通車のエントリーモデル」という役割には、共通点があると言えるのかもしれません。時代の変化とともにその形は大きく変わりましたが、「レックス」という名前には、スバルブランドへの間口を広げるという重要な役割が再び与えられているのです。
まとめ
かつて軽自動車の歴史に名を刻んだスバル「レックス」は、SUVという全く異なる姿で現代に蘇りました。ダイハツからのOEMモデルであり、技術的なつながりは過去のモデルと薄いものの、インプレッサの上級移行によって生じた「普通車のエントリーモデル」というポジションを埋める重要な役割を担っています。これは、かつてスバル軽自動車のエントリーモデルとして多くの人に親しまれた初代レックスが果たした「使命」と共通するものがあると言えるでしょう。時代の変化とともに形を変えながらも、「レックス」という名前はスバルにとって重要な役割を担い続けているのです。