盛夏を思わせる30度を超える日々が続くなか、日本の裏社会では伝統的な「渡世」の儀式が執り行われていた。7月上旬、神奈川県横浜市の新横浜駅構内には、朝早くからビジネスマンや外国人観光客に混じって、スーツ姿の屈強な男たちが集結。彼らの中には高級果物店の紙袋を手にする者もおり、その周辺では神奈川県警の捜査員が厳重な警戒態勢を敷いていた。この物々しい雰囲気の中、日本有数の暴力団組織、稲川会の最高幹部らが一堂に会していたのだ。
この異例の集結は、横浜市に最大拠点を持つ稲川会が、親戚関係にある六代目山口組に対し、毎年の恒例行事である「暑中の挨拶」を行うためであった。最高級の手土産を携え、両組織の結束を再確認するこの儀式は、暴力団業界における重要な外交の一環とされている。特に、六代目山口組の竹内照明若頭と稲川会の内堀和也会長の間には「五分の兄弟盃」が交わされており、両組織の長年にわたる深く強固な関係を象徴している。この日、六代目山口組は司忍組長以下、最高幹部らが静岡県・愛知県の二次団体で迎え入れる体制を整え、全国の親戚・友好団体からの挨拶に応じる準備を進めていた。午前9時過ぎ、高級車センチュリーに乗った内堀会長が新横浜駅に到着。待機していた数人の最高幹部組員と共に、表情は柔らかく、慣れ親しんだ恒例行事ということもあり、終始リラックスした様子で新幹線に乗り込んだ。
六代目山口組への「暑中の挨拶」:伝統と結束の儀式
7月1日の早朝、新横浜駅には、一般的な通勤客や観光客とは異なる、厳粛な雰囲気が漂っていた。スーツ姿の男たちが整然と集まり、彼らの手には高価な贈答品らしき紙袋が握られていた。神奈川県警の捜査員が周囲を固める中、この集まりが一般的なものではないことを示唆していた。これは、国内最大規模の暴力団組織の一つである稲川会が、その最高幹部を率いて、同盟関係にある六代目山口組への「暑中の挨拶」に向かう準備であった。
この「暑中の挨拶」は、単なる季節の挨拶にとどまらない。暴力団業界、すなわち「渡世」においては、組織間の絆を再確認し、互いの立場を尊重し合うための重要な儀式とされている。特に、稲川会の内堀和也会長と六代目山口組の竹内照明若頭は、「五分の兄弟盃」という堅い絆で結ばれており、両組織の歴史的かつ継続的な関係性の深さを示している。この伝統的な交流は、単なる慣習ではなく、組織間の協調と安定を維持するための外交的意味合いを強く持つ。内堀会長は、午前9時過ぎに黒塗りのセンチュリーで駅に到着。待機していた数人の組員と共に、彼らの表情は一様に落ち着き、長年の慣行からくる慣れ親しんだ雰囲気が感じられた。彼らは、司忍組長を筆頭とする六代目山口組の最高幹部が待ち受ける静岡・愛知へと向かう新幹線に乗り込んだ。
朝の新横浜駅で、センチュリーに乗った稲川会内堀会長と警戒にあたる捜査員たちの様子
道仁会との交流:抗争終結への奔走と関係深化
六代目山口組への「暑中の挨拶」を終えた翌日、7月4日、内堀会長の姿は東京・六本木にある稲川会の本部会館にあった。この日は、福岡県に拠点を置く友好団体、道仁会の最高幹部らが「暑中の挨拶」のために訪れたのだ。この訪問は、単なる表敬訪問以上の意味合いを持つ。
道仁会の小林哲治前会長は、六代目山口組と神戸山口組の間で続いていた「分裂抗争」の終結に向けて、仲介役として尽力したことで知られている。彼は神戸山口組の井上邦雄組長とも会談し、抗争終結への道筋を探ったとされる。今年4月上旬に六代目山口組が一方的に兵庫県警に「抗争終結の誓約書」を提出したが、この動きの裏には、内堀会長の地道な下地作りがあったと言われている。内堀会長が両組織間の関係改善に奔走した結果、道仁会との関係も以前にも増して深まっていると見られている。午前11時過ぎ、神奈川県警と警視庁の合同捜査員が周囲を厳しく警戒する中、内堀会長が本部会館に到着。「お疲れさまです!」という組員たちの声が飛び交う中、会長は会館に入っていった。友好団体の挨拶を迎える恒例行事とあって、その表情は柔らかかった。午前11時半には道仁会の最高幹部らが到着し、約15分間の挨拶を終えた後、稲川会館に迎えに来ていた住吉会の車両に乗り換え、そのまま住吉会へと移動していった。
積極的な「ヤクザ外交」が示す未来
連日のように活発な「ヤクザ外交」を展開した稲川会の内堀会長の動向は、暴力団業界全体に大きな影響を与えている。特に注目されるのは、六代目山口組との強固な関係性である。前述のジャーナリストが指摘するように、長期にわたる「山口組分裂抗争」の終結に向けた「下地作り」に内堀会長が深く関与していた事実は、その影響力の大きさを物語る。
「暑中の挨拶」において稲川会が一番手であったことも、両組織間の絆が揺るぎないものであることを明確に示している。現在、六代目山口組では、竹内若頭が「若手登用の改革人事」を推し進めるなど、「新体制作り」を着々と進行させている。このような組織内部の動きと並行して、内堀会長が主導する積極的な外交は、今後の暴力団社会における勢力図や組織間の関係性をより密接なものにしていくと予測される。
「山口組分裂抗争」が今年8月下旬に丸10年を迎える中、神戸山口組が不気味な沈黙を保つ一方で、各主要団体は次の時代を見据え、活発な外交戦略を継続している。内堀会長の動きは、単に伝統的な儀式を遂行するだけでなく、変わりゆく渡世の中で、稲川会が果たす役割の重要性と、新たな秩序構築に向けた動きを強く示唆している。
参考文献
- FRIDAYデジタル
- Yahoo!ニュース (記事元)