NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、初回視聴率15.4%と前作『おむすび』の16.8%を下回るスタートとなったものの、7月2日放送の第68回では17.8%を記録し、番組最高視聴率を更新しました。一部では「ヒロインに共感できない」といった声も見られましたが、物語が戦争の時代に突入するにつれて視聴率は右肩上がりの傾向を見せています。特に、柳井嵩(北村匠海)の兵役時代を描いた第11週から第12週にかけては、視聴者の間で大きな話題となりました。
今田美桜が演じる朝田のぶ。ドラマ『あんぱん』でヒロインとして奮闘する姿
視聴率上昇の鍵は「戦争体験」と「逆転する正義」
ドラマウォッチャーのカトリーヌあやこさんは、『あんぱん』の視聴率上昇の背景には「戦争体験がその後のドラマの大きなテーマとなるから」と分析します。特に「逆転する正義」という言葉が頻繁に登場しますが、これはアンパンマンの生みの親であるやなせたかし氏の実際の戦争体験から生まれた思想です。
劇中では、朝田のぶ(今田美桜)が戦時中に愛国主義者であったものの、戦後に時代や立場が変わる中で、その愛国主義が果たして正しかったのかと葛藤し、後悔する様子が描かれます。一方、嵩は中国の戦地で飢えを経験した際、現地の老女から与えられたゆで卵を日本兵たちと殻ごとむさぼり食べる場面がありました。カトリーヌさんは、このシーンについて「お腹を空かせた人がいれば、敵国の人間であっても自分の食べ物を分け与える。それが決してひっくり返らない正義ではないかという思いがアンパンマンの誕生につながる。ドラマの肝とも思えるシーンに、見入った視聴者は多かったのでは」と語っています。この普遍的なメッセージが、多くの視聴者の心に響いているようです。
後半戦の注目ポイント:登場人物たちの人間関係と新展開
ドラマ『あんぱん』の後半に向けては、さらなる見どころが満載です。7月8日放送の第72回では、嵩も高知新報に入社し、のぶと同じ職場に。二人のラブロマンスの進展にも期待が高まりますが、パン職人のヤムさん役を演じる阿部サダヲさんは『あさイチ』出演時に「なかなかくっつかないんですけれどね」と語っており、その行方が注目されます。
また、朝田家三女のメイコ(原菜乃華)は片思いする健太郎(高橋文哉)と結ばれるのか、婚約者の豪(細田佳央太)を戦争で失った次女の蘭子(河合優実)はこれから新たな結婚へと進むのか、三姉妹それぞれの恋愛模様からも目が離せません。
新たなキャストの登場も話題です。アンパンマンの声優を務める戸田恵子は「ガード下の女王」と呼ばれる代議士・薪鉄子役で出演し、のぶに大きな影響を与える重要な役柄を演じます。『Mrs. GREEN APPLE』の大森元貴は作曲家・いせたくや役で今後登場予定です。カトリーヌさんは、主題歌を担当する『RADWIMPS』の野田洋次郎さんが過去に朝ドラ出演経験があることに触れ、「近い将来、ミセスも朝ドラの主題歌を担当するのでは」と予測しています。
さらに、戦地で嵩に何度も助け船を出した、妻夫木聡演じる八木信之介の再登場も公式に予告されています。八木はサンリオの創業者がモデルだと言われており、やなせ氏と戦時中一緒だったのはフィクションですが、やなせ氏がサンリオから雑誌『詩とメルヘン』を出版した経緯から、今後嵩の人生に大きく関わってくることでしょう。嵩の母である登美子(松嶋菜々子)やヤムさんの再登場にも期待が寄せられています。
『あんぱん』が問いかける普遍的なメッセージと今後の期待
魅力的なキャラクターたちが織りなす『あんぱん』の物語は、嵩が漫画家としてどのようにアンパンマンを誕生させるのか、多くの視聴者の関心を集めています。戦争という困難な時代を経て「逆転する正義」という深いテーマを探求し、現代にも通じる普遍的なメッセージを投げかける本作は、後半にかけてさらに視聴率を伸ばし、国民的なドラマとしての地位を確立することが期待されます。