参議院選挙和歌山選挙区(改選数1)において、熾烈な「紀州戦争」が繰り広げられています。自民党が二階俊博元幹事長の三男、二階伸康氏を擁立する一方、裏金事件で離党した世耕弘成衆院議員は元有田市長の望月良男氏を支援。昨年10月の衆院選和歌山2区での直接対決に続く「紀州戦争」の第2ラウンドとして注目を集めています。選挙戦の終盤を迎える中、ある“失言”が戦況に大きな影を落としています。
「紀州戦争」再燃:二階VS世耕の激突
和歌山選挙区は、長年にわたり二階元幹事長の強い地盤として知られてきました。しかし、安倍派の裏金問題に端を発する世耕氏の離党と、それに続く独自の候補擁立は、この地盤を大きく揺るがしています。二階伸康氏は、父の地盤を引き継ぐ形で立候補し、伝統的な支持層に訴えかけています。対する望月良男氏は、世耕氏の強力な後押しを受け、元有田市長としての実績を掲げ、新たな票の掘り起こしを図っています。両陣営は熾烈な票の奪い合いを展開しており、和歌山の政治地図を塗り替える可能性を秘めた戦いとなっています。特に、前回の衆院選での世耕氏の圧勝は、今回の参院選における二階陣営にとって大きなプレッシャーとなっています。
二階陣営の「緊急通知」に表れる危機感
選挙戦が残り1週間を切った7月中旬、二階伸康氏の陣営は支援者に対し、「緊急通知 情勢緊迫 一票一票の獲得に全力を!!」と題する文書を発出しました。この文書には、戦いの最終局面における陣営の並々ならぬ危機感が鮮明に記されています。「戦いは最終局面、和歌山の命運を懸けた“正念場”です」「いま動かなければ、すべてが失われる――その崖っぷちに、私たちは立っています」「すべてはこの一週間にかかっています。これまでの努力を、ここで無にしてはなりません」といった文言は、陣営が直面する厳しい現実と、支援者に対する切迫した要請を物語っています。この異例の文書発行は、劣勢に立たされている二階陣営の焦りの表れとも解釈できます。
激戦区和歌山での参院選集会で支持を訴える二階伸康氏
鶴保庸介議員の“失言”が戦況を決定づけるか
この「緊急通知」が発出される直接のきっかけとなったのは、7月8日に起こった鶴保庸介参院議員の「失言」でした。石破茂氏が二階氏の応援演説に和歌山へ駆け付けた際、その到着前に鶴保議員は演壇で「運のいいことに、能登で地震があったでしょ」と発言し、世論の猛烈な批判を浴びました。鶴保議員は即座に謝罪し、発言を撤回、さらには参院予算委員長も辞任しましたが、事態が沈静化する気配は見えません。7月16日には石川県町村議会議長会が自民党本部に「厳しい指導と適切な処分を要請する」という抗議文を提出するなど、その影響は深刻化しています。
自民党が実施した情勢調査では、鶴保議員の失言以前、和歌山選挙区では二階氏と望月氏がほぼ横並びの状況でした。しかし、俊博氏の時代から二階陣営を支えてきた関係者によると、失言後に行われた調査では、二階氏の支持率が5ポイント以上も下落し、両者の間に差がついてしまったと頭を抱えています。「競り合っている最も重要な時期に、あの発言は致命的だった。鶴保氏は俊博氏の“弟子”とも言える存在ですからね。失言後、支援が一気にしぼんでしまい、まさに選挙戦をぶち壊したようなものです」と語ります。この失言の影響は和歌山選挙区に留まらず、能登半島を抱える石川選挙区でも、当初優勢だった自民党候補が野党候補に差を詰められ、大苦戦を強いられているとの情報もあります。
和歌山参院選は、鶴保議員の“失言”という予期せぬ事態によって、その様相を大きく変えました。二階陣営が「崖っぷち」と表現する状況は、選挙戦最終盤における一票一票の重みを浮き彫りにしています。この「紀州戦争」の行方は、和歌山の未来を左右するだけでなく、自民党内の派閥力学、そして来るべき政治情勢にも大きな影響を与えることになるでしょう。