藤井聡太王位、王位戦2連勝:神業「打ち歩詰め逃れ」で魅せた絶対王者の深読み

将棋界にまた一つ、神をも楽しませるかのような名局が刻まれた。伊藤園お〜いお茶杯第66期王位戦七番勝負第2局が7月15日・16日の二日間にわたり行われ、現王位である藤井聡太(竜王、名人、王座、棋聖、棋王、王将、22)が、挑戦者の永瀬拓矢九段(32)を破り、見事な勝利を収めた。最終盤に現れた“打ち歩詰め逃れ”という将棋のルールを逆手に取ったかのような美しい投了図は、観る者全てを圧倒し、絶対王者の驚異的な読みの深さに対し、各方面から感嘆の声が上がった。

藤井聡太王位が盤面を前に熟考する様子。第66期王位戦第2局での勝利を象徴する一枚。藤井聡太王位が盤面を前に熟考する様子。第66期王位戦第2局での勝利を象徴する一枚。

戦型と永瀬九段の研究:緻密な序盤戦

将棋界の頂点に君臨する藤井王位が常々語る「面白い将棋」の一端が、本局で垣間見えた。本局は藤井王位の先手番で、両者が得意とする「角換わり」の戦型が選択された。開幕局を落とし、後がない永瀬九段は、この一戦でシリーズをタイに戻すべく、渾身の研究を投入していたことが伺える。ABEMAで本局の解説を務めた阿久津主税八段(43)も、「封じ手での大長考を含めても、このあたりまで研究だったと思う」と、永瀬九段の周到な準備に舌を巻いていた。序盤から緻密な駆け引きが繰り広げられ、互いの研究がぶつかり合う緊迫した展開となった。

藤井王位の「読み切り」:中終盤の攻防と“打ち歩詰め逃れ”

中盤に入ると、先手を取った藤井王位は、難解な局面で「歩頭桂」という強烈な一手で主導権を握る。リスクを伴う手順にも臆することなく踏み込み、永瀬九段の猛攻を巧みにかわしながら、最後まで緩みのない正確無比な指し回しで、勝利を決定づけた。

特に注目されたのは、最終盤に藤井王位が見せた「金寄り」の一手だ。阿久津八段は「角筋を通したまま金を受ける手なので、これでは勝ちかどうかわからなそうだが、ギリギリ詰めろが来ない。リアルタイムでは“金もある”くらいの消去法の一手という感じだったが、藤井王位は『こうなれば余せる』と見ていたんだと思う」と、その深遠な読み筋に感嘆の声を漏らした。そして、この激戦の結末を飾ったのは、将棋の禁じ手である「打ち歩詰め」を逆手にとったかのような投了図だった。自玉が相手の持ち駒の歩で即詰みを回避している状況は、藤井王位の正確な読み切りを象徴する、残酷なまでに美しい局面を描き出した。

観る者を魅了した投了図とファンの熱狂

この劇的な終局の模様は、将棋ファンに大きな興奮をもたらした。藤井王位と永瀬九段が新たに紡ぎ出した“面白い将棋”に対し、インターネット上では「こういうのがすげえよなあ」「打ち歩詰めで詰まないのカッコよすぎる」「いつから読んでた?」「いつもながら信じられない強さ」「誰だよこのルール考えてたの」「凄い見切りやな」「バケモンやな、強すぎだろ」「最短で危険な筋が好きな聡太」「ドキがむねむね」といった感嘆や驚きのコメントが殺到した。その一手一手が、観る者の心を揺さぶる名局となったことは間違いない。

対局後のコメントと専門家の総括

勝利を収めた藤井王位は、「形勢判断のできない局面が多く、途中は自信がないところもあったがはっきりと悪いと思った局面はなく、非常に難しい将棋だった」とコメントし、盤上の複雑さを振り返った。

阿久津八段は、この一局を総括し、「お互いの研究の深さもあるが、中終盤の中央での揉み合い、最後はギリギリの詰む詰まないの読み合い。外野から見ていれば評価値を見て『これは残っているよ』となるが、やっている方はあらゆる変化をすべて読んでいる。かなり怖い順だったが、藤井王位らしい見事な読み切りだった」と述べた。この対局は、藤井王位と永瀬九段というトップ棋士同士が激突したからこそ生まれた、まさに将棋史に残る一局であったと高く評価された。

真夏の七番勝負、王位戦の行方

“真夏の七番勝負”として将棋ファンに親しまれている王位戦は、藤井王位が2連勝とリードを広げている。このまま藤井王位が防衛6連覇へ向けて突き進むのか、それとも永瀬九段が巻き返しを図るのか、今後の展開に注目が集まる。注目の第3局は、7月29日・30日に北海道の新千歳空港に直結する「ポルトムインターナショナル北海道」で予定されており、さらなる激闘が期待される。


参考文献