参議院選挙の投票日が迫る中、与野党の攻防に注目が集まっています。しかし、今回の選挙戦で異彩を放ち、都議選での躍進に続き〝台風の目〟として話題をさらっているのが、参政党です。終盤の情勢調査では東京選挙区で支持を大きく伸ばし、その勢いは増す一方ですが、「日本人ファースト」のスローガンが外国人差別につながるとの懸念や、候補者のロシア系メディア出演を巡る選挙介入疑惑など、常に議論の的となっています。
こうした中で浮上しているのが、新宿歌舞伎町の「夜の住民たち」が参政党を支持しているという情報です。具体的には、ホスト名義のSNSアカウントが参政党やその候補者への投票方法を例示し、投票済証明書が店の割引券になると投稿。これに対し候補者が感謝の返信をしたことが問題視されました。また、大手ホストグループ所属のホストがSNSで「歌舞伎町ホストだけで1万票近い票が眠ってますよ、俺たちにも権利があります」と投稿し、参政党や候補者名をハッシュタグに含めたことも大きな話題を呼びました。
一体、歌舞伎町の夜の住民たちの間で参政党への支持は本当に広がっているのでしょうか? もしそうなら、その理由は何なのでしょうか? 本稿では、現場での徹底した取材に基づき、その実態と多角的な背景を探ります。
歌舞伎町の夜の繁華街で取材を行う様子。参政党への支持を巡る議論の中心地、新宿歌舞伎町の様子を示す。
参政党支持の噂とホスト界隈での影響
歌舞伎町のホスト界隈における参政党支持の動きは、前述のSNSでの発信にとどまらず、従業員に参政党への投票を促すかのような指示がX上で波紋を呼ぶケースも見受けられました。こうした動きは、特に若い世代や夜の街の住人たちの間で、政治への関心がどのように表れているのか、またそれが実際の行動に結びつくのかという点で、社会的な注目を集めています。しかし、こうした表面的な動きの裏には、様々な思惑が隠されている可能性も指摘されています。
ホストたちの実態と政治への関心度
実際のホストたちの声は、SNSでの派手な発言とは異なる冷静なものでした。大手ホストグループ「冬月グループ」に在籍する20代のホストT氏は、自身は今回の選挙で特定の政党を支持するつもりはないと語ります。その上で、話題になったSNSでのホストたちの発言は「パフォーマンスではないでしょうか」と冷静に分析しました。
「うちの店はXで話題になっている人の系列店ですが、正直選挙なんてほとんどのホストは興味ありません。それよりも改正風営法のほうが問題です。『歌舞伎町には1万近い票が眠っている』と言っていますが、そのうちの9割は投票にすら行かないと思いますし、ホストが政治に興味がないという実態も知っているはずです。私たちの店舗では誰がどの政党に票をいれても問題ありませんし、個人の思想には関与しません。あくまでポストをした人が言っているだけです」とT氏は語り、ホストの政治に対する実際の関心度が低いことを示唆しました。
歌舞伎町の「裏方」が語る真実と将来の展望
ホストクラブの内部事情に詳しい内勤スタッフからも、非常に現実的な意見が聞かれました。彼らの見解は、ホスト個人の行動原理と、それが政治的発言にどうつながるかについて、深い洞察を与えています。
「ホストが気にしているのは自分の客と売り上げです。客と金を持っているから発言できることもあります。インフルエンサーたちは新しい方法で自分を大きく見せようとしているのでしょう。私自身も裏方をしていて売れている人の努力は知っていますが、だからといって、いきなり政治の話をしてもついていける人はほとんどいないと思います。ただし、改正風営法の影響で売り上げが大きく落ち込んだりすると、次の選挙では本格的な組織票が出来上がるかもしれません」このコメントからは、ホストの政治的発言が必ずしも純粋な政策支持に基づくものではなく、自己ブランディングやビジネス戦略の一環である可能性が読み取れます。しかし、風営法改正のような切実な問題が、将来的に組織票へと発展する可能性も示唆されています。
若者層と夜の住民の選挙意識
ホスト以外の夜の新宿・歌舞伎町周辺で働く人々にも今回の参院選について尋ねてみたところ、「選挙に行く」と答えた人は全体の2割程度と少数派でした。特に10代、20代といった若者世代では「行かない」と答える人が多数を占め、大半の人が政治に強い関心を持っていない実態が明らかになりました。
しかし、その中でも投票に行くと答えた少数派の一人、トー横周辺で呼び込みをしていた20代のコンセプトカフェ店員の女性からは、具体的な不満と期待が聞かれました。彼女は特定の政党を支持しているわけではないものの、「税金とかいろいろと高いんで、それが安くなるような政党がいいと思っています。参政党はいいなとは思います」と述べ、現政権への不満から参政党を投票候補の一つと見ているようです。
彼女が抱える悩みは、歌舞伎町の住人ならではのものでした。「『日本人ファースト』って言葉は覚えやすいし、私もそうなってほしいです。歌舞伎町にはたくさんの外国人が来て、私もよく話しかけられます。外国にはコンカフェみたいな文化がないのか、冷やかしで声をかけてくる人や、酔っ払って一緒に写真を撮ろうとする人なんかがいて、日本語も通じませんし怖く感じます。こういった外国人の迷惑行為を日本人のために規制してくれるなら、いい政党なのかなと思います」この意見は、「日本人ファースト」というスローガンが、自身の身近な生活における具体的な不満と結びついていることを示しています。
参政党支持の多様な動機
他の参政党支持者にも話を聞くと、その支持動機は多岐にわたることが判明しました。参政党が掲げる「日本を守る」「日本を豊かにする」といった政策に関心を寄せていることは共通していますが、これらの政策を掲げる政党は参政党に限ったことではありません。つまり、政策内容の深さよりも、いかに分かりやすい言葉でメッセージが伝えられているかが、彼らにとっては重要な要素となっているようです。
参政党を支持するという20代のガールズバー店員の男性は、「政治参画へのハードルの低さ」が参政党の魅力だと話します。しかし、それ以外にも複合的な理由が存在するといいます。
「他の政党も『減税』とか言っていますが、政策とかよくわからないんですよね。でも参政党はそれがわかりやすい。それに政治家は上から目線で偉そうと感じますが、参政党はそれがなくて、身近に感じますし、今の生活を変えてくれそうな雰囲気があります。あと、名前がカッコいいんですよね。それと、世間で叩かれている政党を推していれば通ぶれる感じがします。お客さんに政治の話を聞かれても、それっぽい返答ができるので都合がいいです。『外国人が──』って言っておけばとりあえず、ニュースとかを見てる感が出ますし……」この男性の言葉からは、政策の分かりやすさ、政治家の親近感といった表面的な要素に加え、政党の「イメージ」や、自身の「ステータス」や「インテリジェンス」を示すためのツールとして政治を利用する側面が見て取れます。
結論:歌舞伎町ホストの参政党支持、その複雑な実態
歌舞伎町の現場で直接話を聞いた結果、ホストや夜の住民たちの間で参政党への広範な熱狂的支持が広がっているというよりは、SNSでの一部の目立つ発言が先行している状況が見て取れました。選挙に行くという人自体が少数派であり、政治に関心がない人が大半を占めているのが実情です。
また、参政党を支持している人々の動機も、必ずしも純粋な政策への共感や理念への賛同だけではありません。税金への不満、外国人への迷惑行為への懸念といった個人的な体験に基づくものから、政策の分かりやすさ、政治家の身近さ、さらには政党のイメージや自己ブランディングに至るまで、人それぞれに多様な思惑が絡み合っていました。特に、風営法改正に賛成した参政党を、その影響を最も受けるホストたちが支持しているという点には、ある種の矛盾すら感じられます。
分かりやすい言葉で政治に興味を持ち、普段選挙に行かない人々が投票に行き、政治に参加することは、社会全体の政治意識向上に繋がる喜ばしいことではあります。しかし、その背後にある複雑な動機や、一部の突出した情報に惑わされることなく、多様な視点から政治を捉えることの重要性を示唆する取材結果となりました。