「福井中3女子殺害事件」再審判決へ:元捜査員が明かす「捜査本部の落ち度」

1986年に福井市で発生した中学3年生女子生徒殺害事件において、殺人罪で服役した前川彰司さん(60)の再審判決が、いよいよ今月18日午後2時に名古屋高裁金沢支部で言い渡されます。この重要な判決を前に、当時の捜査に深く関わった元福井県警警察官の男性(80)が読売新聞の取材に応じ、当時の記憶を詳細に語りました。男性は、「捜査本部には落ち度があったと思う。批判も受け止めたい」と述べ、捜査における問題点を初めて明らかにしました。

38年前の悲劇と長期化する捜査の壁

この事件は、当時中学3年生の女子生徒が首に包丁を突き立てられ、血まみれの状態で発見されるという悲惨なものでした。事件発生当初は早期解決が期待されていましたが、捜査は難航を極め、発生から半年が経過しても容疑者逮捕には至っていませんでした。福井県警捜査本部が事件解決に焦燥感を募らせる中、新たな動きがありました。別の事件で福井署に勾留されていた元暴力団組員のB男が、事件発生から約半年後の1986年9月から10月頃に、「犯人は前川彰司ではないか。服に血を付けているのを見た」と供述。さらに同年12月頃には、「A男が前川を白色の車に乗せていた」と、前川さんの知人であるA男の関与を示唆する供述も飛び出しました。

「A男の取り調べ、何とかならんか」:捜査本部の焦燥

男性が当時勤務していた警察署に、捜査幹部からの電話が鳴ったのは1987年2月のことでした。男性は捜査本部には所属していなかったものの、前川さんの知人であるA男に「顔が利く」として、直々に協力を依頼されたとみられています。男性によると、電話の相手は「A男の取り調べがうまくいかない。何とかならんか。お前なら『ちゃんとした』供述がとれるやろ」と迫ったといいます。A男には前科があり、暴力団の取り締まりを担当していた男性とは、互いにあだ名で呼び合うほどの関係でした。一度は依頼を断った男性ですが、後日、捜査幹部2人の名が書かれた現金入りの封筒を手渡されたと証言しています。男性は理由を尋ねなかったものの、「捜査本部は相当焦っていた。A男を落としてくれという意味だったのだろう」と当時の状況を推し量っています。この事実は、当時の捜査がいかに窮地に追い込まれていたかを物語っています。

福井中3女子殺害事件の再審判決を前に取材に応じる元福井県警警察官の男性。捜査の「落ち度」を語る。福井中3女子殺害事件の再審判決を前に取材に応じる元福井県警警察官の男性。捜査の「落ち度」を語る。

元捜査員が語る、A男との「記憶に残る会話」

気が進まないながらも、男性は翌1987年2月、A男の取り調べを行いました。その時の会話を男性は鮮明に記憶しています。男性が「おい、A男。元気か」と声をかけると、A男は「前川を乗せて、事件現場(の市営住宅)に行きました。この場合、共犯になりますか」と問い返してきたといいます。このA男の問いかけは、供述が誘導された可能性を示唆しており、今回の再審請求において、当時の捜査の問題点を浮き彫りにする重要な証言となりそうです。長年の沈黙を破り、この元警察官が証言した「捜査本部の落ち度」は、前川さんの再審判決、そして日本の刑事司法のあり方にも大きな影響を与える可能性があります。

今回の元警察官の証言は、福井中3女子生徒殺害事件の捜査における潜在的な問題点に光を当て、前川さんの無実を訴える再審請求の行方にさらなる注目が集まっています。18日の判決は、単なる一つの事件の結末に留まらず、過去の捜査手法や冤罪の可能性について、社会に改めて問いかけるものとなるでしょう。

参考資料