2025年7月18日、待望の『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』がついに公開されました。副題にもその名が冠されている通り、本作の中心人物となるのは、冷酷さと人間性が同居する上弦の参・猗窩座(あかざ)です。炭治郎たちとの壮絶な戦いが描かれるこの『無限城編』をより深く味わうために、猗窩座の名前や技に秘められた意味について考察することは非常に重要です。実は、彼の鬼としての姿と人間時代の悲劇的な過去が強く結びついているのです。
劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来のキービジュアル。上弦の参・猗窩座と竈門炭治郎が描かれており、物語の中心となる猗窩座の悲劇的な過去と強さの根源を示唆する。
猗窩座という名に込められた痛烈な皮肉
「猗窩座」と書いて「あかざ」と読ませる、この特異な漢字の組み合わせには、作者・吾峠呼世晴先生の深いメッセージが読み取れます。まず、「猗」という字を分解すると、けものへんと「奇」になります。けものへんは元々「犬」を指し、「奇」は「変わっている」という意味を持つため、「猗」は「変わった犬」を暗示します。
次に「窩」は「あなぐら」や「隠れ家」を意味し、最後の「座」は文字通り「座る場所」や「位置」を指します。これらを総合すると、猗窩座とは「あなぐらに座る変わった犬」という、どこか奇妙で寂しげな響きを持つ名前となります。
この名前は、人間時代の猗窩座の本名「狛治(はくじ)」と深く関連しています。狛治という名は、神社の門を守る「狛犬」に由来すると作中で明かされています。狛犬は、その名の通り人々や大切なものを守る存在です。作中では、狛治の恩人である慶蔵が「狛犬は守るものがないとだめだ」と語っており、この言葉は狛治の人生、そして彼が背負うことになる運命を象徴する重要なものでした。
しかし、鬼となった猗窩座、かつての狛治は、最も大切な恋人・恋雪と恩師・慶蔵を毒殺され、守り切ることができませんでした。原作漫画では、この悲劇の章のサブタイトルが「役立たずの狛犬」となっており、彼の無力感を痛烈に表現しています。つまり、「猗窩座」という名は、大切なものを守れなかった「役立たずの狛犬」が、絶望の末に「あなぐらに座り込む奇妙な鬼」と化した、その皮肉に満ちた姿を表現していると言えるでしょう。
美しい技名が語る人間時代の記憶と愛情
一方で、猗窩座が使う技の名前には、彼の人間時代の美しくも儚い思い出が色濃く反映されています。彼の術式である「破壊殺・羅針」で展開される雪の結晶のような模様は、最愛の恋人・恋雪がつけていた髪飾りがモチーフとなっています。
さらに、「流閃群光」「万葉閃柳」「飛遊星千輪」「青銀乱残光」といった華やかな技名の多くは、狛治が恋雪と共に見た夜空を彩る花火に由来しています。これらの技名からは、鬼として残酷な一面を持つ猗窩座の奥底に、人間時代の狛治が愛した人との幸せな時間、そして守りたかった想いが深く刻まれていることが伝わってきます。美しい花火の輝きが、彼の内なる痛みをより一層際立たせています。
強さの根源は「守りたい」という深い愛情
猗窩座の圧倒的な強さは、単なる鬼としての力だけではありません。その根源には、人間時代に「大切な人を守りたい」という一心で強くなろうと努めた狛治の純粋な願いが深く宿っています。鬼と化してもなお、この強い愛情と後悔の念が、彼の技一つ一つに込められているのです。
『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』では、そんな猗窩座の人間時代の記憶と、それにまつわる悲しい想いが物語の重要な鍵となります。皮肉に満ちた鬼としての名前とは対照的に、美しい記憶に由来する技名が、最終的に物語にどのような結末をもたらすのか。すでに原作漫画で彼の物語を見届けたファンも、猗窩座というキャラクターの名前と技に込められた深い意味を知ることで、映画をより一層深く、感情移入しながら楽しむことができるはずです。彼の戦いの裏にある悲しい過去と、それでも消えない美しい想いを、ぜひ劇場の大画面で確かめてみてください。
参考文献
- 原作漫画『鬼滅の刃』吾峠呼世晴/集英社
- 劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 猗窩座再来 公式X (旧Twitter)