近年の日本政治において、参政党の躍進は注目を集めています。その性質を巡っては、「極右政党」と見る分析がある一方で、既存の政治の枠組みから逸脱した「ポピュリズム政党」として捉えるべきだという指摘も専門家から上がっています。欧州各国がすでに経験しているように、ポピュリズムの急伸は政治地図を大きく塗り替える可能性を秘めており、日本政治はこれまでにない「無極化」状態へと向かうことが予想されます。
参政党の神谷宗幣代表が2025年7月21日、東京都新宿区で躍進する党の当選確実候補者に花を付けている様子
ポピュリズムとは何か?二つの主要な定義
政治学者フィリップ・シュミッターは、ポピュリズムを「既存の政治制度の中に具体化された対立軸を超えて、あるいはそれを無視する形で大衆の支持を得ようとする一つの政治運動」と定義しています。この定義から、ポピュリズム政党の主要な特徴が浮かび上がります。第一に、これまで避けられてきた政治課題を解決すると主張する政治的カリスマのもとで展開され、その成否はリーダーの資質に大きく依存します。第二に、イデオロギーに一貫性がなく、しばしば非現実的な主張を掲げるため、予期せぬ結果をもたらすことがあります。
もう一人のポピュリズム研究の第一人者であるカス・ミュデは、ポピュリズムをさらに明確に定義しています。彼によれば、ポピュリズムとは、社会を「汚れなき人民」と「腐敗したエリート」とに二分し、政治は「人民の一般意思」を代表すべきであるとする政治イデオロギーであるとされます。この考え方は、エリート層の不祥事に対する「上級国民」といったバッシングや、有名芸能人に対する厳しい批判にも通じる側面が見られます。学歴や名声によって社会的に成功したとされる人々に対する、大衆からの特定の感情が根底にあると言えるでしょう。
日本におけるポピュリズム政党の特徴と具体例
日本におけるポピュリズム政党の例として、参政党のほか、NHK党や再生の道が挙げられます。これらの政党には、神谷宗幣、立花孝志、石丸伸二といったカリスマ的な指導者が存在し、彼らは既存政党では解決できなかった課題を一挙に解決すると主張しています。「NHKをぶっ壊す」を掲げた立花孝志氏の主張は、その典型と言えるでしょう。
これらの政党は、近年の日本政治に見られた「守旧」対「改革」といった対立軸を「超越」した主張を展開します。例えば、石丸氏の主張のように、具体的な政策や目的が必ずしも明確ではない場合もありますが、現状を劇的に変えてくれるかもしれないという期待感を醸成する雰囲気を持ち合わせています。このように、ポピュリズムは、明確なイデオロギーよりも、カリスマ的なリーダーシップと既成政治への不満を背景に、大衆の支持を集める傾向があるのです。
日本政治の新たな局面:無極化への影響
参政党の躍進が示唆するのは、日本政治がこれまでに経験したことのない「無極化」状態へと移行する可能性です。伝統的な左右のイデオロギー対立や、政党間の明確な政策対立が希薄化し、ポピュリズム的な主張が大衆の支持を得ることで、政治の軸が曖昧になる現象を指します。このような無極化は、有権者の政治に対する不信感や既成政党への失望を背景に、特定のカリスマや既存の対立軸にとらわれない新しい政治勢力への期待が高まることで加速する可能性があります。日本政治は今、ポピュリズムの台頭を通じて、そのあり方を大きく問い直される転換点に立たされていると言えるでしょう。
参考文献
- フィリップ・シュミッター (Philippe C. Schmitter)
- カス・ミュデ (Cas Mudde)