マレーシアのアンワル首相は、高騰する生活費に対する国民の不満が募る中、全成人国民への現金支給や燃料価格の引き下げを含む新たな経済対策を打ち出しました。これは、物価高騰や改革の遅延を理由に、首相の退陣を求める大規模なデモが予定されている状況下での緊急措置となります。政府は国民の経済的負担を軽減し、内需を喚起することを目指しますが、これらの措置が財政目標に与える影響についても専門家から懸念の声が上がっています。
国民の不満とデモ活動の背景
マレーシアでは近年、生活費の継続的な上昇が国民の大きな不満の種となっています。この高まりに対応するため、アンワル首相は7月23日、国内の全成人国民を対象とした新たな経済支援策を発表しました。これらの対策は、7月26日に首都クアラルンプールで予定されている大規模な抗議デモを前に発表されたものです。このデモは野党が主催し、警察は1万から1万5000人の参加者を見込んでおり、物価高騰と政府による改革の遅延が主な理由とされています。
具体的な生活費支援策:現金支給とガソリン補助金の見直し
政府が発表した新たな対策では、18歳以上の全てのマレーシア国民に対し、8月31日から100リンギ(約23.67ドル)の一時的な現金支援が実施されます。この現金支援スキームにより、政府が今年支出する総額は当初予算の130億リンギから150億リンギ(約35億5000万ドル)に増加する見込みです。アンワル首相は、「これまで様々な対策を講じてきたが、国民が不満を感じていることは認識しており、生活費が依然として対処すべき重要な課題であることも認める」と述べ、国民の苦境への理解を示しました。
さらに、首相は貧困に苦しむ人々を支援するための追加措置を翌24日に発表する予定であるとしました。また、多くの国民が利用するガソリン「RON95」に対する一律補助金の調整についても言及し、詳細は9月末までに発表される予定です。これにより、RON95の国民向け価格は現在の1リットル当たり2.05リンギから1.99リンギに引き下げられる見込みです。なお、外国人は補助金の対象外となり、市場価格で購入することになります。政府は当初、今年半ばに補助金調整を行う予定でしたが、この見直しを通じて富裕層への補助金を廃止することを目指しています。
マレーシアの生活費高騰問題に対応するため、国民への現金支給と燃料価格引き下げ策を発表するアンワル首相。
財政健全化への影響と専門家の見解
これらの新たな経済対策は、国民の生活を直接的に支援する一方で、マレーシアの財政健全化計画に影響を及ぼす可能性が指摘されています。ケナンガ・インベストメント・バンクのエコノミスト、ムハマド・サイフディン・サプアン氏は、世界的な不確実性が続く中で内需を喚起するためには現金給付や補助金が必要であるとしながらも、「費用がかかる。政府はどのように資金を調達するのか。財政目標に圧力がかかる可能性が高い」と述べ、資金調達の課題と財政への影響に懸念を示しました。
フィッチ・レーティングスのソブリンチームに属するキャスリーン・チェン氏は、補助金の合理化が遅れたり、その進展が不十分であったりする場合、政府が掲げる2028年までに財政赤字を国内総生産(GDP)比3%に削減するという目標達成が危うくなる恐れがあると指摘しました。国民の不満解消と財政の健全性維持という二つの目標の間で、マレーシア政府は困難なバランスを取ることを迫られています。
参考文献
- ロイター (2025年7月23日). マレーシア首相、生活費高騰対策で現金支給と燃料価格引き下げを発表. https://news.yahoo.co.jp/articles/335f127c71cf79f79724c76fcd241c3b3ab72e68