世田谷一家殺害事件、DNA解析で新事実判明:犯人の推定年齢は「30代」に上方修正

2000年の大みそかに発生し、幼い子ども2人を含む一家4人が惨殺された「世田谷一家殺害事件」は、発生から20年以上が経過した現在も未解決のままだ。この度、事件現場に残された犯人のDNAを警視庁が専門研究機関で詳細に解析した結果、犯行時の推定年齢が従来の「15歳〜20代」から「30代」であった可能性が新たに浮上した。この新事実は、現在犯人が50代から60代であることを示唆しており、長年描かれてきた犯人像を大きく覆すものとして注目されている。

DNA鑑定技術の進化が示す新たな犯人像

警視庁はこれまで、犯人が現場に残したマフラーやヒップバックから、犯行時の推定年齢を「15歳〜20代」と発表し、10代の少年を含む「若い男」による犯行と推測してきた。しかし、近年のDNA解析技術の著しい進歩により、この推定が更新されることになった。

最新のDNA解析技術では、DNAの「メチル化」と呼ばれる現象を解析することで、個人の年齢を高い精度で推測することが可能になった。「メチル化」とは、人が加齢するにつれて遺伝子の一部に「メチル基」が付着し、その遺伝子が働かなくなる現象を指す。特定のDNA領域において、この「メチル化」の進行度合いを測定することで、年齢を誤差プラスマイナス2〜3年という極めて高い精度で推測できるという。研究機関であれば、この解析はわずか3日から5日程度で完了するとされている。

警視庁の捜査員は、今回の解析結果を受けて「犯人は30代でも違和感はない」と述べた。また、「現場に残された犯人のものとみられる若者風の服やヒップバックが、犯人が常に身につけていたものなのか、あるいは自分で購入したものなのかは分からない」と指摘し、これまでの犯人像形成に影響を与えてきた証拠品の解釈にも再検討の余地があることを示唆した。

捜査を加速させるDNAによる民族・血縁推定

世田谷一家殺害事件では、DNA解析による民族の推定もこれまでに行われてきた。最新のデータに照らし合わせると、犯人の父親のルーツは日本よりも中国や韓国の可能性が高く、母親のルーツは従来指摘されてきたアドリア海周辺国に加え、UAE(アラブ首長国連邦)やアゼルバイジャンなどコーカサス地方の可能性も新たに判明している。

このようなDNA解析は、様々な事件捜査で活用が進んでいる。元東海大学客員教授の水口清氏は「日本人か否かといった対象者の出身地を推定することで、捜査の参考にしたいというケースも増えてきている」と語る。

実際に、強盗や窃盗事件など、多くの捜査で水面下でDNA解析が頻繁に行われているという研究者の証言もある。ある事件では、犯人が父親から受け継ぐ父系遺伝子(Y染色体)が日本人に稀な型の「R系統」であると判明し、母親から受け継ぐ母系遺伝子(ミトコンドリア)が韓国や中国などのアジア系であったことから、「犯人は外国人の可能性が高い」と結論付けられ、犯人特定に大きく貢献した事例も存在する。

DNA解析が未解決事件解決の鍵に:成功事例と日本の課題

近年進化を遂げたDNA解析技術は、事件解決の大きな一助となっていると、警視庁の元幹部も強調する。

2019年11月、港区の公園で生後間もない女の赤ちゃんの遺体が見つかった事件では、死因が窒息死であるにもかかわらず、周辺に防犯カメラが少なく捜査は難航した。しかし、赤ちゃんのDNAから父系遺伝子と母系遺伝子をそれぞれ検出し、父系遺伝子が逮捕歴を持つ男と一致したことで、警視庁はこの男への聴取から犯人である母親の特定に成功した。元幹部は「数十年前であればこのようなDNA解析は不可能で、この事件も迷宮入りしていた」と述べ、科学技術の進歩が事件解決の重要な鍵であることを裏付けた。アメリカでは、州法で規制されている州を除き、DNA解析から犯人の似顔絵作成や親族の割り出しを行うなど、警察捜査に幅広く活用されており、これまでに345件以上もの未解決事件がDNA捜査によって解決したと、米・バージニア州のDNA解析企業は報告している。

一方、日本ではDNAの取り扱いについて定める法律が存在しない。警察庁は「身体的特徴や病気に関する情報を含む部分は使用しない」としており、犯人の似顔絵を作成することなどは認められていないのが現状だ。

専門家・元捜査幹部が訴えるDNA捜査の原則化と活用拡大

このような状況に対し、国内のある遺伝学専門家は、日本でも似顔絵作成などDNAを活用した捜査を「導入すべき」と訴える。同時に、「日本はDNAについて社会原則が足りていない。研究指針は存在するが、社会原則としてDNAの活用を宣言すべきだ。個人情報が守られ、差別されないのであれば、凶悪事件解決にDNAは活用されるべきである」と、倫理的な側面からの議論の必要性も指摘している。

世田谷一家殺害事件の犯人が現場に残したとみられる特徴的なシャツ。世田谷一家殺害事件の犯人が現場に残したとみられる特徴的なシャツ。

また、警視庁のある元幹部は、「長期未解決事件の解決にはDNAしかない」と強調し、「DNAから犯人の似顔絵を作る技術を日本でも研究し、捜査資料として活用できるようにすべきだ。これをやることが世の中から非難されるはずがない。外国人も増え、人口減少で警察官の数も減っている。捜査の効率を上げるためにもDNA捜査は必要だ」と、その導入を強く求めている。

科学技術の進歩は、これまで不可能とされてきた事件の解決に新たな光を当てている。DNA捜査のさらなる活用拡大が、無残に命を奪われた多くの被害者やその遺族の無念を晴らす決め手となることが強く期待される。


執筆: フジテレビ社会部記者 林英美、フジテレビ解説委員 上法玄