パナソニックが抱える構造問題:10万人超削減でも業績横ばいの深層とは?

パナソニックホールディングスは5月、グループ各社の営業・管理部門を対象に国内外で1万人規模の人員削減を発表しました。先日、その傘下である事業会社「パナソニック」における早期退職の募集内容が具体的に明らかとなり、勤続5年以上の40〜59歳、および64歳以下の再雇用者が対象であることが判明しました。退職金の上乗せ分は55歳前後で最大となるよう設定され、数千万円が加算されるケースもあるといいます。2000年以降、グループ全体で幾度となく人員削減を実施し、事業売却を含めるとこれまでに10万人以上を削減してきたにもかかわらず、ソニーのように劇的な業績好転は見られず、売上・利益ともに横ばいの状況が続いています。この状況を引き起こしている根本的な要因はどこにあるのでしょうか。

パナソニックホールディングスのロゴと本社ビル、大規模人員削減の発表を背景に業績改善への課題を示すパナソニックホールディングスのロゴと本社ビル、大規模人員削減の発表を背景に業績改善への課題を示す

繰り返される大規模な人員削減と事業売却の歴史

今回、早期退職の募集内容が具体化したパナソニックは、家電や空調などを手がける中核事業会社です。その募集内容からは、他社のリストラと同様に、人件費の高い中高年層をターゲットとしていることが明確に見て取れます。パナソニックホールディングス全体では1万人の削減が計画されており、これは2024年3月期末時点の従業員数約20万7548人の約5%に相当する規模です。

同ホールディングスの人員削減は今回が初めてではありません。ITバブル崩壊後の2001年には、約1万3000人の早期退職を実施。リーマンショック後の2009年にも1万5000人の削減計画を実施しています。さらに、他社への事業売却を合わせると、これまでにすでに10万人以上が削減されてきたことになります。

2009年3月期末時点で約29万2000人だった従業員数は、三洋電機の子会社化により翌年度末には約38万5000人へと一時的に膨らみました。当時の三洋電機はリチウムイオン電池でトップシェアを誇り、パナソニックは三洋の太陽電池や蓄電池技術を取り込むことを狙っていました。しかし、2011年には重複する三洋の白物家電事業を中国のハイアールに売却。2013年度にはプラズマテレビ事業や個人向けスマートフォン事業からも撤退するなど、不採算事業の整理を進め、2015年3月期末時点の従業員数は約25万4000人となりました。その後も太陽電池の生産や半導体事業からの撤退、パナソニック液晶ディスプレイの売却などを経て、前述の通り2025年3月期末時点では約20万8000人となる見込みです。三洋電機の子会社化前を起点とすれば、約8万人、実に3割近くの人員が削減された計算になります。

業績横ばいの根本原因を探る:ソニーとの比較

このように大規模な人員削減と事業構造改革を繰り返してきたにもかかわらず、パナソニックの売上と利益は長らく横ばい状態が続いています。これは、かつて経営危機に瀕しながらも、大規模な構造改革とポートフォリオ転換によってV字回復を遂げたソニーとは対照的な状況です。ソニーがエンターテインメントやイメージセンサーといった高収益分野に経営資源を集中し、新たな成長ドライバーを確立した一方で、パナソニックは事業売却や人員削減でスリム化を図りつつも、次なる柱となる高成長事業の育成に苦戦している現状が浮き彫りになっています。長年にわたる変革努力にもかかわらず、根本的な収益体質の改善や持続的な成長軌道の確立が、依然としてパナソニックにとって喫緊の課題であることが示唆されます。

結論

パナソニックホールディングスが発表した1万人規模の人員削減は、同社が抱える構造的な課題の深さを改めて浮き彫りにしました。過去20年以上にわたる大規模なリストラと事業売却によって10万人以上を削減してきたにもかかわらず、ソニーのような劇的な業績改善が見られないのは、単なる規模の適正化だけでなく、収益性の高い中核事業の創出やビジネスモデルの転換といった、より根源的な改革が求められていることを示唆しています。今後のパナソニックの動向は、日本を代表する電機メーカーが直面する構造改革の難しさと、そこからいかに脱却するかの試金石となるでしょう。


参考文献