今月開催された韓米協議において、米国のトランプ政権が韓国政府に対し、「韓米相互防衛条約」を米国のインド太平洋戦略に拡大して適用することを含む「同盟の現代化」を求めていたことが23日までに明らかになりました。複数の韓米両政府筋によると、米国務省のランドウ副長官は18日に東京で開催された韓米外務次官会議で、「韓米相互防衛条約として締結されている韓米同盟を『未来型の包括的戦略同盟』に強化したい」と要請。トランプ大統領による25%関税の猶予期限(8月1日)を目前に控えて通商交渉が進む中、安全保障協議でも米国から具体的な要求が突きつけられた形です。
韓米相互防衛条約の適用拡大と国防費増額を巡る米国の要求を図解したグラフィック
「韓米相互防衛条約」の適用範囲拡大:北朝鮮有事から太平洋地域へ
韓米相互防衛条約の前文には、「太平洋地域の集団防衛」に向け両国が努力することが定められています。具体的には、第3条において、両国のどちらかが「太平洋地域で武力攻撃」を受けた場合、もう一方がこれを「自国の危険性」と見なし「行動する」と規定されています。これまでこの条項は、北朝鮮が韓国を攻撃した場合に米国が自国に対する攻撃と見なして介入するという意味に解釈されてきました。
しかし、トランプ政権が今回求めているのは、この解釈をさらに明確化し、台湾有事など太平洋地域で米中が衝突した場合にも、韓国が一定の役割を果たすべきという点です。これは、従来の北朝鮮に限定された防衛協力の枠を超え、広範な地域安全保障への貢献を求める動きと言えます。
米国が求める「互恵的同盟の現代化」の具体的内容
ランドウ国務副長官は、韓米外務次官会議において「この地域の安全保障環境は変化しており、同盟を互恵的に現代化する必要がある」と強調。その上で、韓国の国防予算増額や米軍戦略兵器展開費用の一部負担なども要請しました。現在、国内総生産(GDP)の2.3%となっている韓国の国防費を、GDPの5%にまで増額するよう正式に求めたのです。
また、今月10-11日に韓国で開催された外交・国防の局長級実務協議でも、米国務省のケビン・キム副次官補が「同盟の現代化」について詳細な説明を行っています。これらの要求は、米国が同盟国に対し、より積極的な役割と財政的負担を求めている姿勢を示すものです。
韓国政権の対応と課題:台湾海峡問題における立場
韓国大統領府の魏聖洛(ウィ・ソンラク)国家安全保障室長は9日、韓国の国防費について「国際的な流れに沿って増額する方向で協議を行う」と明らかにしました。しかし、米中衝突の際に韓国が韓米相互防衛条約に基づき米国側での貢献を求められた点は、李在明(イ・ジェミョン)政権にとって大きな課題となる可能性があります。
李在明大統領は選挙遊説において「台湾海峡問題には介入しない」という趣旨の発言を重ねて行ってきました。このため、米国の「同盟の現代化」要求に応じることは、李政権がこれまで示してきた外交・安全保障上のスタンスと矛盾する可能性があり、その対応が注目されます。
米国が「同盟現代化」を推進する背景と目的
米国のトランプ政権が「同盟の現代化」を進める背景には、中国の脅威が差し迫る新たな国際安全保障環境に合わせて、同盟体制を見直し、その財政的・軍事的負担を同盟国にも負わせたいという考えがあります。米国は今年3月末に公表した「国家安全保障戦略(NSS)」暫定版において、「中国による台湾侵攻抑止」を最優先の課題として明確に位置づけています。
早ければ来月にも公表される新たな国家安全保障戦略や、米軍配置の見直しを検討する「グローバル・ポスチャー・レビュー(GPR)」などにも、これに対応した米軍再編について記載される見通しです。同時に、トランプ政権は韓国だけでなく、日本、オーストラリア、フィリピンなどの同盟国に対しても、①地域の防衛力強化に向けた防衛費増額と、②米中対立の際に米国側で貢献すること―などを求め始めています。
今回の米国の要求は、変化する国際情勢、特に中国の台頭と米中対立の激化を受けて、米国が同盟国に新たな役割と負担を求めている現状を浮き彫りにしています。韓米同盟の「現代化」は、今後のインド太平洋地域の安全保障環境、そして各国の防衛政策に大きな影響を与えることになりそうです。
参考文献
- Yahoo!ニュース (朝鮮日報日本語版): https://news.yahoo.co.jp/articles/9a258f21d0076b0dec6158b23aeb5c4c95b08c5c