日米間の自動車関税が15%に引き下げられることで合意に至り、米国の自動車市場において日本車が有利な立場を得るとの見方が強まっています。一方で、既存の25%の関税がかけられているメキシコやカナダからの輸入比率が高い米ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターといった大手メーカーにとっては、相対的に大きな打撃となる懸念が浮上しており、米自動車業界からはこの合意に対する批判の声が上がっています。
「ビッグスリー」の懸念:メキシコ・カナダ生産車の関税問題
GMをはじめとする米自動車大手3社、通称「ビッグスリー」を代表する米自動車貿易政策評議会(AAPC)のマット・ブラント会長は、日米合意を強く非難しています。同会長は、米国産部品の割合が高い北米製の自動車よりも、日本からの輸入車の方が関税率が低い現状は「米国の産業と自動車労働者にとって不利益だ」と指摘しました。ビッグスリー各社がメキシコやカナダで生産する車両の多くは、米国製のエンジンや主要部品を搭載しており、これらの車両が高い関税の対象となることが問題視されています。
フォード元CEOが指摘する「日本メーカーの勝利」とその裏側
米フォード・モーターのマーク・フィールズ元最高経営責任者(CEO)は、米テレビのインタビューで、この日米合意を「日本メーカーの勝利だ」と明言しました。その一方で、米大手メーカーの車両が今後、日本市場への参入がより容易になったとしても「われわれの製品は日本人にあまり好まれていない」と述べ、この合意がフォードなどの米国メーカーにもたらす実質的な効果については疑問符を呈しています。これは、関税障壁の撤廃だけでなく、市場の嗜好やブランドイメージといった要因が販売に大きく影響するという認識を示唆しています。
米国自動車大手GMとフォードのロゴマーク。日米自動車関税引き下げが両社の経営に与える影響について言及する記事の関連画像。
GM決算が示す関税の打撃と米政権への期待
米国の自動車大手各社の業績は、高関税による悪影響に直面しており、メキシコやカナダといった国々との貿易交渉が進展することへの期待が高まっています。GMが2025年4月から6月期の決算発表で報告した純利益は、前年同期比で35%もの大幅な減少となりました。この減少は、関税によって11億ドル(約1600億円)もの打撃を受けたことが主な要因とされています。さらに、通期では40億ドルから50億ドルに達する関税費用が発生すると予測されており、その大部分はメキシコとカナダからの輸入に起因すると見られています。GM幹部は決算説明会において、米政権が各国と関税引き下げで合意することが極めて「重要だ」と強調しました。貿易協定の締結が進めば「関税の費用は下がっていくと確信している」と述べ、政府の外交努力に強い期待を表明しています。
まとめ
日米間の自動車関税引き下げ合意は、日本の自動車メーカーにとって米市場での競争力向上に繋がる一方、米国の主要自動車メーカー、特にGMやフォードにとっては、メキシコやカナダからの輸入に対する高関税が引き続き課題となることが浮き彫りになりました。この複雑な状況は、グローバルな貿易政策が個別の産業や企業の業績に与える多岐にわたる影響を示しており、今後の各国の貿易交渉の行方が、自動車業界全体の未来を左右する重要な要素となるでしょう。