近年、労働力不足が深刻化する中で、新入社員の初任給引き上げに関するニュースが頻繁に報じられています。特に、帝国データバンクが2025年2月に実施した調査によると、2025年4月入社の新入社員の給与を引き上げる企業は7割に達し、平均引き上げ額は9114円でした。このような動向は社会全体の賃金上昇を示唆する一方で、現在の40代から50代にあたる就職氷河期世代の給与は、その恩恵を十分に受けていない現状が指摘されています。本記事では、第一生命経済研究所の分析を基に、若年層の賃金上昇と、取り残されがちな就職氷河期世代の賃金格差が拡大している理由について深く掘り下げて解説します。
新入社員と就職氷河期世代の賃金格差を示すグラフ
若手社員の賃金上昇とその要因
第一生命経済研究所のレポートが示す通り、2019年から2024年の5年間で、大卒20代の所定内給与は約10%の増加を記録しました。この若年層における給与の着実な上昇には複数の要因が挙げられます。主な背景としては、深刻な労働人口の減少、それに伴う企業間の人材獲得競争の激化、そして政府による「賃上げ要請」が挙げられます。特に、将来の労働力を確保するためには若年層の雇用確保が企業にとって喫緊の課題となっており、その「入り口」である初任給の待遇改善が加速している傾向が見られます。
就職氷河期世代の賃金実態
一方で、1990年代半ばから2000年代半ばにかけての就職難を経験した「就職氷河期世代」の給料は、若年層のような顕著な上昇が見られません。第一生命経済研究所の同レポートによれば、ここ5年間で20代の所定内給与が約10%増加したのに対し、40代前半はほぼ横ばい、40代後半は約2%のプラスに留まり、50代前半に至っては約3%のマイナスを記録しています。この期間における消費者物価指数は9%以上も上昇しており、実質的な賃金で見るとさらに購買力が低下していることになります。これは、就職氷河期世代が以前にも増して生活費の負担感を強く感じていることを示唆しています。
「取り残された世代」が直面する構造的課題
なぜ、これほどまでに世代間の賃金格差が広がってしまったのでしょうか。就職氷河期世代が社会に出たのは、バブル崩壊後の経済が長期停滞期に突入し、新卒採用が極端に絞られていた時期でした。このため、多くの人が正社員としての就職が困難で、派遣社員や契約社員といった非正規雇用からキャリアをスタートせざるを得ませんでした。キャリア形成の初期段階でのこうした出遅れが、その後の賃金や昇進における格差に大きな影響を与えています。さらに、当時の日本企業では「年功序列」から「成果主義」へと雇用制度が移行し始めていた時代でもあり、年齢を重ねても給料が上がりにくい、あるいは管理職ポストが不足しているといった構造的な課題に直面するケースも少なくありませんでした。
まとめ
新入社員の賃金が上昇傾向にある一方で、就職氷河期世代の給与が停滞、あるいは実質的に減少している現状は、日本社会が抱える根深い世代間格差の問題を示しています。若年層の賃金上昇は労働力確保の緊急性によるものですが、就職氷河期世代は経済停滞期の入社という構造的なハンディに加え、雇用制度の変化にも対応を迫られました。この世代間の賃金格差は、単なる一時的な現象ではなく、過去の経済状況と雇用慣行の変遷が複雑に絡み合った結果として生じており、今後の労働市場や社会保障制度を考える上で重要な課題となります。
参考文献
- 新入社員の給与は「月2万円」上がってるのに、「45歳・就職氷河期世代」の自分は変化なし! 不公平に感じるけど、世代的に仕方ない?“世代間格差”が広がる理由とは
- 帝国データバンク:「2025年度 新入社員の初任給に関する企業の実態アンケート」(2025年2月)
- 第一生命経済研究所 レポート(詳細調査報告書は参照元記事より特定)