北朝鮮は、白頭山観光の重要な拠点と位置付ける両江道・三池淵(サムジヨン)市の三池淵空港を、国際空港として再整備する計画を進めている。この動きは、2026年以降の外国人観光客受け入れを見据えた観光インフラ強化の一環であり、金正恩朝鮮労働党総書記が掲げる観光産業振興方針の具現化とみられる。国際的な注目を集めるこのプロジェクトは、北朝鮮の対外経済戦略において重要な意味を持つ。
国際飛行場化の具体的な進展と背景
2025年7月18日、朝鮮中央テレビの放送で、三池淵市で活動する宣伝音楽隊の背後に「三池淵国際飛行場 複合型駅舎配置案と鳥瞰図」と記された3Dレンダリング映像が映し出された。この映像には、3つのプラットホームを持つ鉄道駅と接続された空港ターミナルが示されており、3.3キロの滑走路再舗装や新たなエプロン(航空機の駐機・整備スペース)の増設など、空港機能の大幅な高度化が進められている様子が描かれている。
朝鮮中央テレビで公開された三池淵国際飛行場の複合型駅舎配置案と鳥瞰図の3Dレンダリング映像。背景に映る宣伝音楽隊とともに、北朝鮮の国際空港化計画を示す。
アメリカの北朝鮮専門メディア「NKニュース」は、衛星企業プラネットラボの衛星画像を分析し、空港拡張工事が2025年5月頃から開始されたと推定。白頭山から約32キロという三池淵空港の立地は観光拠点として理想的である一方、以前から滑走路の幅と長さが不十分で大型機の運航が困難という指摘があり、観光需要への対応が急務とされてきた。
三池淵空港の多面的な役割とこれまでの運用
三池淵空港は、朝鮮人民軍空軍第8航空師団所属の第27連隊の作戦拠点としても知られ、北東部および日本海側の防空任務を担う軍事的な要衝でもある。その一方で、金正恩総書記の観光政策推進により、2014年からは平壌の順安国際空港と三池淵空港を結ぶ国内線も定期運航されている。さらに、2013年から2018年にかけては、中国吉林省の延吉空港と三池淵空港を結ぶチャーター便が不定期ながら運航された実績があり、国際的な観光客誘致の試みが過去にも存在したことを示している。
北朝鮮の広範な観光インフラ整備と歴史的経緯
北朝鮮は2025年、長年の懸案であった江原道・元山葛麻海岸観光地区を開業させるなど、大規模な観光インフラ整備を同時並行で進めている。この葛麻地区は北朝鮮最大級の海岸リゾートとして注目されており、三池淵空港の国際化も、このような国家的な観光開発戦略の一環とみられる。
過去には、金剛山観光や開城観光が南北交流の象徴となった歴史がある。三池淵や白頭山観光もその延長線上に位置づけられ、南北関係における重要なテーマとなってきた。2007年には、当時の盧武鉉韓国大統領と金正日総書記の間で白頭山―ソウル間の直行便開設が議論されたが、2008年の金剛山観光中断により実現には至らなかった。また、文在寅政権下の2018年には、文大統領が平壌での首脳会談後、三池淵空港経由で白頭山を訪れ、金正恩総書記とともに白頭山・天池に登る様子が公開され、「南側の国民も観光できる日が来ることを信じている」と語る場面もあった。
外国人観光客誘致への期待と専門家の分析
現在、韓国からの観光客受け入れ再開は不透明な状況が続くが、三池淵空港は中朝国境やロシア極東とも地理的に近く、将来的に外国人観光客のハブ拠点として大きな期待が寄せられている。韓国の慶南大学のイム・ウルチュル教授は、「金総書記は葛麻地区開業時に、他の観光資源も国際水準で整備する方針を示していた。これは、複数の観光地を一気に開発し、外国人観光客の積極的な誘致に乗り出す明確な意図がある」と分析している。
三池淵空港の国際化は、北朝鮮が観光産業を経済再建の重要な柱と位置付け、国際社会との限定的な交流拡大を模索していることの表れと言えるだろう。今後の進展は、国際情勢や南北関係の動向と密接に連動していくと予想される。
参考文献:
- KOREA WAVE / AFPBB News
- Source link: https://news.yahoo.co.jp/articles/f8835195e4dc6d286fd18a3e97318df5ec664990