作家・深沢潮さん、週刊新潮差別コラムに抗議会見「心打ち砕かれた」

7月24日発売の「週刊新潮」に掲載されたコラムが、作家の深沢潮さんに対し「日本名を使うな」と名指しで差別的な記述を行った問題で、深沢さんは4日、東京都内で記者会見を開きました。深沢さんは、発行元である新潮社に対し、文書での謝罪と、自身の批判・反論を掲載するための誌面確保を文書で求めたことを明らかにしました。この問題は、言論の自由と差別の境界、そして出版社としての責任が問われる事態として、文芸界内外で大きな波紋を広げています。

問題のコラムと深沢氏への差別的記述

問題とされているのは、週刊新潮7月31日号に掲載された元産経新聞記者・高山正之氏による連載コラム「変見自在」です。このコラムは、1940年に日本が朝鮮人に日本式の姓名への改名を強いた政策を「創氏改名2.0」と皮肉って引用。その中で、深沢潮さんをはじめ、俳優や大学教授らの実名を挙げ、「日本も嫌い、日本人も嫌いは勝手だが、ならばせめて日本名を使うな」と記しました。これは、特定のルーツを持つ人々に対する露骨な差別表現であり、深刻な人権侵害に当たるとの声が上がっています。

新潮社からのデビューと「裏切り」の感覚

深沢さんは2012年に小説「金江のおばさん」で、新潮社が主催する「女による女のためのR―18文学賞」大賞を受賞し、作家としてデビューしました。受賞作を含む連作短編集「縁を結うひと」(後に「ハンサラン 愛する人びと」に改題)も新潮社から刊行されるなど、同社とは深い関係性がありました。会見で深沢さんは涙をこらえながら、「新潮社からデビューし、数冊の本を出せたことは幸せだったが、私の心は打ち砕かれた。屋上でいい景色を見せてくれたと思ったら、背後から突き落とされた感覚だ」と、深い失望感を表明しました。この発言は、長年の信頼関係が裏切られた作家としての苦悩を強く示しています。

記者会見で涙ながらに訴える作家の深沢潮さん(右)と、代理人の佃克彦弁護士。週刊新潮の差別コラムに関する会見の様子。記者会見で涙ながらに訴える作家の深沢潮さん(右)と、代理人の佃克彦弁護士。週刊新潮の差別コラムに関する会見の様子。

文芸界からの連帯とSNSでの波紋

深沢さんの訴えを受け、文芸界からも多くの連帯の声が寄せられています。週刊新潮で連載小説を執筆中の作家・村山由佳さんは、「あれほどの差別と中傷に満ちみちたコラムの掲載を、どうして事前に止められなかったのか不思議でなりません」と編集部の対応を疑問視し、深い失望を表明しました。また、R―18文学賞の選考委員を務める作家・柚木麻子さんも、「新潮社発行の雑誌で、事実誤認の情報のもと、深刻な人権侵害を受けたこと、それに対して誠実な対応がなされないことは、選考委員として看過できない」とのメッセージを寄せました。深沢さんは、版元に対して抗議することの難しさを認めつつも、「これまで声高に言ってこなかった作家さんたちが連帯してくださっているので、頑張っていける」と、その決意を語りました。コラム掲載翌日の7月25日には、深沢さんが自身のX(旧ツイッター)に「版元が守ってくれないということを思い知るのは作家にとって崖っぷちを一人で歩いていくようなもの」と投稿。これに対し、他の作家や翻訳家、編集者らから「あまりのひどい内容に啞然」「デビュー版元からどうしてこんな記事を出せたのか」といった抗議の投稿が相次ぎ、SNS上でも大きな反響を呼びました。

代理人弁護士による厳重な非難

深沢さんの代理人である佃克彦弁護士は会見に同席し、本件コラムに対する厳重な非難を展開しました。佃弁護士は、「深沢さんはデビュー当時からコリアンルーツであることを隠しておらず、本件コラムには事実誤認がある」と指摘。さらに、「外国にルーツがある人が日本を批判することを敵視していると言わざるを得ない。度し難い人権侵害のコラム」であると断罪しました。これは、差別的表現が単なる意見表明ではなく、個人の尊厳を傷つける行為であることを明確にしています。

新潮社の公式謝罪と今後の対応

新潮社は4日夜、深沢さんの記者会見を受けて、同社のホームページに「今回、深沢潮様の心を傷つけ、多大な精神的苦痛を負わせてしまったことをたいへん申し訳なく思っております」とするおわびの文書を掲載しました。この中で同社は、「出版社として自らの力量不足と責任を痛感しております」と謝罪し、「深沢様からのご要望は弊社に届き次第、真摯に対応を検討してまいります」と表明しました。しかしながら、コラムで深沢さん以外に実名を挙げられた俳優や大学教授については、この謝罪文では言及されていませんでした。新潮社によると、問題のコラムは今週発売号でも引き続き掲載されるとのことです。

結論

今回の週刊新潮の差別的コラム問題は、表現の自由の範囲を逸脱した人権侵害の深刻さ、そして出版社が負う社会的責任の重さを浮き彫りにしました。深沢潮さんの勇気ある会見と、それに連帯する文芸界からの声は、多様性が尊重される社会の実現に向けた重要な一歩となります。新潮社は深沢さんへの謝罪は行ったものの、コラムの継続掲載や他の被害者への対応については不透明な点が残っており、今後の動向が注目されます。言論機関としての責任ある対応が強く求められています。


参照元: 朝日新聞社