近年、街中で自動車に匹敵する速度で走行する「電動自転車」を目にすることが増えました。特に問題視されているのが、その実態が「ペダル付き電動バイク」、通称「電動モペット」であるケースです。これらは、適切な手続きや部品装着を行わずに公道を走行する「違法モペット」として、社会問題化しています。一見すると電動アシスト自転車と見分けがつきにくいこれらの車両が、なぜ危険であり、法的にどのような扱いを受けるのか、その実態と法的要件を詳しく解説します。
違法電動モペットによる事故・摘発が急増:2024年の統計が示す危険な実態
警察庁の発表によると、電動モペットに起因する人身事故は、2024年に入って既に68件確認されています。さらに、違法走行に対する摘発数は2538件に上り、これは前年と比較して驚異の7.3倍という異常な増加率を示しています。
摘発された違反の内訳を見ると、最も多いのがナンバープレートの不表示(778件)。次いで、運転免許不保持(526件)、ヘルメット未着用(505件)と続きます。本来、原動機付自転車(原付バイク)として30km/hの速度制限があるにもかかわらず、これらの車両はそれを大きく超える速度で走行しているケースが多く見られます。現在のところ、その危険性にもかかわらず「自転車」のように扱われている実態があり、その区別は一般の利用者だけでなく、取り締まりを行う警察官の間でも混乱があると言われています。
公道を走行する電動モペットのイメージ
「電動アシスト自転車」と「電動モペット」の決定的な違いとは?
多くの人が混同しがちな「電動アシスト自転車」と「ペダル付き電動バイク(電動モペット)」ですが、日本の法律では明確な基準が定められています。
電動アシスト自転車の法的基準
電動アシスト自転車は、あくまで「人の力を補助する」ための自転車であり、以下の基準をすべて満たす必要があります。
- 電動機(モーター)を搭載していること。
- 24km/h未満の速度域において、人の力に対するモーターの補助比率が特定の値以下であること。
- 10km/h未満ではアシスト比率が1:2以下。
- 10km/h以上24km/h未満では、速度の上昇に伴ってアシスト比率が減少すること。
- 24km/h以上の速度では、モーターによる補助力が加わらないこと(アシスト比率が0になること)。
- 上記1~3の基準に適合しないように容易に改造できない構造であること。
つまり、電動アシスト自転車は、ペダルを漕がなければモーター単独で進むことはできず、モーターの力だけで走行できる車両は電動アシスト自転車には該当しません。
ペダル付き電動バイク(電動モペット)の法的定義と要件
一方、「ペダル付き電動バイク(電動モペット、フル電動自転車)」は、以下の特徴を持つ車両です。
- ペダルとモーターの両方を備え、スロットル(アクセル)が装備されており、モーターのみで走行できるもの。
- 電動アシスト自転車のアシスト比率基準を超えるもの。
電動モペットは、たとえペダルを漕いで人の力だけで走行したとしても、法律上は「運転」に該当し、原動機付自転車または自動二輪車としての扱いを受けます。そのため、公道を走行するためには以下のすべての条件を満たすことが義務付けられています。
- ナンバープレートの表示: 車両の後面に、各区市町村の税条例で定める標識(ナンバープレート)を見やすいように表示すること。
- 運転免許の取得と携帯: 当該車両を運転できる運転免許(原付免許、普通二輪免許など)を取得し、携帯すること。
- 保安基準を満たした装置の装備: 道路運送車両法に定められた保安基準に適合する制動装置(前後輪ブレーキ)、前照灯、制動灯(テールランプ)、尾灯、番号灯、後写鏡(ミラー)、方向指示器(ウインカー)、警音器(クラクション)などを備えていること。
- 自賠責保険または共済の契約: 自動車損害賠償保障法に基づき、自動車損害賠償責任保険または自動車損害賠償責任共済の契約が締結されていること。
- 乗車用ヘルメットの着用: 運転中は必ず乗車用ヘルメットを着用すること。
これらの条件を満たさずに公道を走行した場合、道路交通法違反等の罪に問われ、重い罰則が科せられる可能性があります。
ヘルメット未着用で危険走行を行う電動モペット利用者
違法走行の識別と、社会にもたらす影響
街中で見かける「電動アシスト自転車」風の車両で、人がペダルを漕がずにモーターの力だけで走行していたり、原付バイクをはるかに上回る50km/h近い速度で走っていたり、あるいはナンバープレートがなくヘルメットを着用していない場合、それは間違いなく「ペダル付き電動バイク(電動モペット)」であり、違法に走行している可能性が高いです。一般的に流通している電動アシスト自転車では、ギア比の観点から平地で30km/hを出すこと自体、必死に漕いでも困難です。
これらの違法な電動モペットの存在は、交通事故のリスクを著しく高めるだけでなく、交通ルールや安全意識に対する社会全体の信頼を損ないます。歩行者や自転車、自動車を運転するすべての人にとって予測不能な危険となり、結果的に悲惨な事故につながる恐れがあります。電動モペットを利用する方々はもちろん、周囲のドライバーや歩行者も、これらの車両の特性と法的な位置づけを正しく理解し、安全な交通社会の実現に向けて協力することが不可欠です。
スロットル付きでモーターのみ走行可能なペダル付き電動バイク(電動モペット)
結論
電動モペットによる事故や違法走行の増加は、日本の交通安全における喫緊の課題です。利用者自身がその法的分類と義務を理解し、適切に運用することが何よりも重要となります。無免許、無保険、ノーヘル、ナンバープレートなしでの走行は、重大な交通違反であり、自身だけでなく他者の命をも危険に晒す行為です。
読者の皆様におかれましては、電動アシスト自転車と電動モペットの明確な違いを認識し、適切な車両選択と安全運転を心がけてください。そして、もし違法な走行を目撃した場合は、その危険性を理解し、必要に応じて関係機関への情報提供を検討することも、安全な社会を築く上で私たち一人ひとりに求められる行動と言えるでしょう。
参照元
- 警察庁
- 道路交通法
- 道路運送車両法